この夏からNT(ナショナルトラスト)の会員に復帰し、数年間のギャップを取り戻すかのように、毎週のように夫婦でNTの庭園を訪れています。其処で必ずのように見掛けるようになったのがmeadow
メドウです。
メドウとは、本来草原や牧草地、畑脇の自然の花畑の事。元々欧州の草原では野生の花を日本よりも多く見掛け、と言うか、根本的に花を咲かせる種類の野草や雑草が日本より多く育つのだと思います。それ故に、日本ならすぐに観光地化しそうな天然の花の群生地は、ヨーロッパではそう珍しくはないかも知れません。
しかし、庭園や公園で見掛けるメドウは、あくまでナチュラルな雰囲気の草花を人工的に育てている場所で、言わば庭園形式の一つです。
大抵は種から簡単に育つ一年草の組み合わせで、「メドウ・ミックス」と呼ばれる、それらしい草花の混合種も販売されています。普通の小さな袋入りも買えますし、キロ単位で大袋入りも売られています。
典型的なメドウは、矢車草(菊)の青、ヒナゲシの赤、マーガレット(オックス・デイジー)かカモミールの白の組み合わせ。それに、ムギセンノウの濃いピンク、アラゲシュンギクやハルシャギク等のキク科の花の黄色、フラックス(亜麻)の薄紫が加わる事もあります。これらは全て花付きが非常に良く、また開花時期や高さが大体揃うようになっていて、正に絵に描いたような景観を作ります。
こちらは、NTのHatchlands Park ハッチランズ・パークのお屋敷前の、池の周囲をぐるりと囲むメドウ。
色数が多く、まるで宝石箱のような愛らしさ。メドウの背後にススキっぽいオーナメント・プランツを植えているのが、牧草地っぽさを高めています。
同じくハッチランズ・パークの、ここ数年の内に手入れされて公開され始めたらしい、駐車場脇のウォルド・ガーデン内に設けられたメドウ。
ピンクのゴデチアとオレンジ色のカルフォルニア・ポピーが主体で、メドウとしてはちょっと個性的です。
その中でも一際目を引いたのが、細かくフリンジの入ったヒナゲシ。一瞬、ポピーとは気付けません。
普通メドウは開けた日当たり抜群の平地に在りますが、このNTのShefield Park シェフィールド・パークのメドウは部分的に木陰。
しかも、花壇部分が砂利敷きの一段高い小山になっているのが変わっていました。
つまり水捌けが良過ぎる程な訳で、乾燥に特に強い植物を混ぜているのかも知れませんが、実際に余り上手く育ってなく、地面が目立つ場所も場所も見受けられました。
こちらは、ロンドン中心部の日本大使館(父の死に伴って書類を申請しに行った)近くのグリーン・パーク内。
都会の中のオアシスに見えますが、実際には木々からの花粉が空気の霞む程凄まじく、周囲の車の排ガスも喉が痛む程の酷い環境です。しかし実はこのオックス・デイジーは、排ガスを好むと言われるタフさで、イギリスでは高速道路脇でも大量に元気に咲いています。
NTのBasildon Park バジルドン・パークの、コスモス中心の秋らしいメドウ。
もっともイギリスでは、コスモスは初夏から咲き始め、特に秋を象徴する花でもなさそうです。そもそも矢車草とコスモスの花期が同じだなんて、日本では見た覚えがありません。
一方こちらは、牧草地の真正の天然のメドウ。場所は、やはりNT管理のDitchling Beacon ディッチリング・ビーコン(ブライトン近く)。
良く見ると、黄色いのはマメ科のミヤコグサ(birdsfoot trefoil)の仲間で、同じくマメ科のピンクのアカツメクサの組み合わせのようです。
自然自体もナチュラル・ガーデンも好きなイギリス人からは、メドウは昔から愛されて来ました。しかし、何故ここ最近になってこうも一気に増えたのか? 環境問題が益々深刻化する今、多分野趣溢れてエコっぽく見えるからであろう、と言うのがP太の意見です。実際BBCのニュースに寄ると、土壌の栄養過多等の理由で、1930年代からイギリス古来の天然のメドウの97%は消滅したとか。
市販されているメドウの種の植物も、元々雑草同然に丈夫なので、肥料や水やり、手入れが無くとも逞しく育つ花ばかりです。例え人工のメドウであっても、昆虫の生息を助け、引いては昆虫を食べる鳥の生息をも支援し、つまり動植物の生態系を保護するのは確かです。
植物を育てる地面はあるけれど、ガーデニングに手間を掛ける時間はない、と言う人にとっては、メドウ・スタイルは打って付けかも知れません。メドウ・フラワーの種を買って来て、撒きさえすれば良いのですから。