2024/01/25

フィリグリーの茶色いラインストーンのブローチ




私達夫婦が行く日曜日開催のフリーマーケットは、大抵は9月に終了しますが、昨年は78月と多くが雨天で中止された為、10月中旬まで開催される事になりました。普通イギリスの秋は雨が多いので、10月の開催日は大方中止されるだろうと思っていました。しかし昨年の10月は異例に雨が少なく、日曜日は天気に恵まれました。特にこの昨年の最終日の前の回は、早くから快晴が予報され、10月のイギリスにしては気温がかなり高く暑い程で、出店数もほぼ満杯でした。

しかし出店者の多くは、一般客の開場の一時間後位には、やはり店仕舞いを始めていました。売り手の話を聞いていたら、出店数が多いのは競争相手が多いと言う事で、この日は売れ行きが悪いから、さっさと閉店するとの事でした。私達夫婦もこのフリマに売り手として参加した事が数度ありますが、確かに一気に物が売れて忙しいのは最初の一時間で、その後はほとんど暇になります。しかし出店数が多い少ないのに関わらず、客が多い少ないのに関わらず、幾ら安くしても売れないものは売れないんですけどね…。

そんなフリマの去り際に、未だ開いているストールを一応一通り見渡していると、最初に覗いた時には他の客が漁っていた為、良く物色出来なかったストールで、このブローチを見付けました。大好きな、多分アール・デコ時代のチェコスロヴァキア製のフィリグリーのブローチです。値段は1ポンドで高くもなく、もう一度ちゃんとチェックして良かったと思いました。

3cm弱×横5cm位で、この手のブローチとしては余り大きくありません。中央に12mm幅位のオーバルの茶色のラインストーンの他、地金の色に似過ぎていて目立ちませんが、同系色の直径5㎜程のラインストーンが数個鏤められています。チェコスロヴァキア製フィリグリーのブローチとしては、石の数は控え目。

一方、台座のフィリグリーは複雑に構成され、優雅で立体感のあるデザインです。

裏面のピンは、確かフランス式と呼ばれる古風な形態です。留めにくくなっていたので、ペンチで修正しました。

中央のラインストーンのみオープンバックで美しいのですが、こんな深い色のは、いつも写真で上手く色を拾えず残念に思っていました。しかし、ブローチを少し立てて裏からライトを当てると、ラインストーンの美しさを少しお伝え出来るかも知れません。

 

 

 


2024/01/24

70年代のグリーティング・カード 二種

  

週の二日だけ開店する山小屋風チャリティショップは、クリスマス前後はお休みでしたが、年が明けて早速行ってきました。そして、今年も初日から収穫がありました。手芸クラフト材料を幾つか、今時のチャリティ屋としても格安で買いましたが、その他にもこの古いグリーティング・カードを二枚買いました。

どちらも文字ナシ・中面無地の、同サイズ・同仕様の多目的カードで、同じイラストレーターに寄って描かれたらしく、元は一緒のセットに入っていた物と思われます。カードを贈る機会が多いイギリスでは(その代わりに日本の一筆箋のような簡易なメッセージ文具は存在しない)、多目的カードのセット売りも珍しくありません。

1970年代の製品らしく、昔実家に未だ残っていた、お年玉年賀葉書の3等のカード・セットを思い出させるような絵柄です。まず一枚目は、大きな帽子にパラソルを持ち、花ワゴンに乗って手紙らしき物を読む、ちょっとおすまし気味の女の子。

二枚目は、背にリュートのような楽器を担ながら花束を抱える、吟遊詩人っぽい男の子。女の子はヴィクトリア時代風の服装をしているのに対し、この男の子はチューダー朝の格好をしています。

そして共通の封筒が、表面は無地なのに、いきなり内側にだけ激しいペイズリー柄。こんな内側にだけ柄がある封筒は、昔から欧米に結構存在します。しかし、受け取る側が手紙の封を切っても余り目に入りそうもないのに、一体この仕様に何の効果があるのかは謎。

凄く好みの絵柄と言う訳ではないのですが、人物も丸ければスズメも丸く描かれ、花々も丸くカラフルで可愛いイラストです。特に、男の子が返って女の子より愛らしく描かれているのは、当時としては珍しいかも知れません。

 

 

 


2024/01/22

アール・デコのクリア・ラインストーンのネックレス


昨年のフリーマーケットで、数週間ビンテージ・ジュエリーに出会えない時期が続き、これはその後に久々に手に入れたネックレスです。毎回全く見掛けない事はないのですが、デザインが在り来たりで惹かれなかったり、状態が難有りだったり、フリマとしては高かったり(と言ってもせいぜい35ポンド程度なので凄く気に入れば買いますが)で、買うまでに至る物にはしばらく出会えませんでした。

今回買ったのは、いかにもアール・デコなデザインのネックレスです。老婦人が、ビンテージ・ジュエリーをテーブルの1/3位に並べて販売していました。もしこのネックレスが彼女自身の持ち物だとしたら、実際に192030年代のアール・デコ時代の製品ではなく、恐らく50年代のアール・デコ調のリバイバルになります。本当は4ポンドだけど、2ポンドで良いわと言われました。ありそうで今まで見た事のないデザインだし、状態も良いので、2ポンドの価値は十分あると思いました。

ラインストーンは全て直径2㎜程度の小ささで無色透明なので、一見地味ですが、全体的なボリュームは相当ありますし、着用するとインパクトは大きいと思います。

正方形を三つ繋げたような、直線的なハートのような中央の台座には、両端に連爪が七連も繋がれていて、きらきら揺れるのでかなりゴージャスです。

ラインストーンは、クラスプ以外は全て爪留めです。爪留めなら古いとか高級な訳ではありませんが、単なる接着よりは手間は掛って値段は高くなるのは確かですし、やはり石が外れにくいのです。中古としても、爪留めの方が石の欠けている物は少ないのです。

今は見掛けない丁寧な造りのクラスプも、ビンテージ・ジュエリーの魅力の一つ。ここにも、極小のラインストーンが嵌め込まれています。巷にはビンテージ風に作られているジュエリーも沢山出廻っているので、本当に古いか新しい製品か分からない場合、留め具の形態で判断すると言う手もあります。

 

 


2024/01/21

初夏のソウブリッジワースのアンティーク・モール巡り 6

昨年六月に訪れたSawbridgeworth ソウブリッジワースのアンティーク・モール巡りで、最後に「Cromwell Antiques」に寄りました。

ここには、いつも時間と体力が十分残っている時にだけ最後に寄ります。何故って、我々には概ね高級過ぎて敷居が高いから。

この店には、箱に雑多に詰め込まれて床に置かれたようなジャンク品は一切なく、ガラスのキャビネットに整列された本物のアンティークやヴィンテージばかり。

その分、博物館や芸術品クラスの商品には出会え、骨董品の学習や目の保養にはなります。

特にアンティーク&ビンテージ・ジュエリーには、幅広い時代の物が揃っています。

 中央の蜻蛉の七宝のブローチは、1950年代の物で60ポンド。

上階には、手頃な値段のビンテージ・ジュエリーも売られています。

しかし、値段は安くとも必ず鍵の掛かったキャビネット入りなので、わざわざ階下の会計場所に鍵を開けて貰うのに頼みに行かなければならず、この店で何か買いたいと思うのに至った事は未だ一度もありません。

値札に全て店名のクロムウェルの肖像画入りなのも、ちょっと堅苦しい。

何と言うか、全てが妥当な値段で(古物の価格相場は難しい所だが)、ぼったくりもない代わりに、掘り出し物的なお買い得品もないのです。

今回はこの店でビンテージ・ジュエリーの写真ばかりを撮りましたが、本当はガラス製品や室内装飾品等に見事な商品が揃っています。
 

今回のソウブリッジワースのアンティーク・モール巡りで、買った物は結局ブローチ一つだけでしたが、心地良いお出掛け日和で、二人共眺めただけも十分充実していて楽しめました。




2024/01/19

アイヌの愛娘

 

! 漫画「ゴールデンカムイ」実写映画公開。従来の原作ファンにとって実写化がめでたいかどうかは兎も角、主人公「不死身の杉元」を山崎賢人が演じると聞き、正直「またかよ」と思いましたが、…少なくともアシパ役は、多くの人が「どうせ」(ヒドイ)と思っていたらしい橋本環奈ではありませんでした()

しかし、舘ひろしの土方歳三の再現ぶりは完璧だし、玉木宏の鶴見中尉の怪演ぶりも楽しそうではあります。私はまたしても当分見る事は出来ませんが、制作は映画「キングダム」シリーズのプロダクションが担当するらしいので、酷い出来にはならないだろうと踏んでいます。

 「ゴールデンカムイ」、通称「金カム」は、明治時代後期のゴールドラッシュに沸く北海道を舞台に、強烈な個性の輩がアイヌの莫大な埋蔵金を狙う、野望と陰謀が渦巻く争奪戦活劇です。言うなれば、「北海道ウェスタン」。

埋蔵金の謎を解く暗号が、24人の囚人の背に分割されて刻まれた刺青に隠されている為、人皮を剥がして集めるとかエグイ話も登場しますが、抜群のストーリー引力とキャラクターの面白さ(常軌を逸した変人・奇人多し)で、ぐんぐん物語に引き込まれて行きます。

コミカルなシーンが多いものの、登場人物達の多くは辛い過去や深い心の闇を持っていて、本筋は決して外さない。その描写の絶妙なバランスが、人気の秘訣の一つかも知れません。

今回リカちゃんが着ているのは、そのヒロインで、とある悲願の為に一獲千金の夢を追う主人公・杉元佐一が、相棒として信頼するアイヌの少女「アシパ」(←「リ」は小文字なのが正式)の衣装です。

アシパは、勇敢で賢く進歩的・合理的な考えの持ち主。当時のアイヌ女性が家事や刺繍等の衣服系の手仕事に従事するのが一般的だったのに反し、狩猟に励み野山を駆け廻っています。

狩りの知識や経験、弓矢の腕前は既に一流で、単独でヒグマを倒す事も出来ます。アシパは蒼味掛かった瞳の美少女ですが、美味しい物には目がなく、変顔が得意な明るくひょうきんな性格でもあります。そう言えば、数年前に大英博物館で開催された日本の漫画展で、メイン・グラフィックに登場していたのは、このアシパさんでした。

リカちゃんがこのコスプレをすると、アシパ本人よりも大人っぽく見えると思いました。ボディをピュアニーモ・エモーションSに換えているので、尚更そうかも知れません。

アシパの年齢を、アニメの中では杉元の身長の半分位に描かれている時もあり、最初はすっかり8歳位だろうと思っていました。しかし12歳と知り、ちょっと驚いた記憶があります(…リカちゃんより年上じゃん)

確かに、アイヌの風習で病魔除けの為のバッチイ幼名から成人名に変わるのが6歳位、それを名付けた父親が殺されてから5年は経っているので、物語の開始時点でも11歳以上と言う事になります。 

12歳にもなって「★ンポ先生」や、見知らぬ得体の知れないジジイ(実は土方歳三)の股座で居眠りするのはマズイんじゃあ…。一方実写映画でアシパを演じる山田杏奈は23歳だそうで、12歳は無理でも156歳位には見えます。

漫画やアニメの中の衣装を実現するのは、例え単純化された雛型でも毎回凄く大変ですが、今回はアイヌの民族衣装の基礎知識が必要で、更にアシパさんは携帯品が多く、特に面倒で途中で何度も投げ出したくなりました~。

上衣「アットゥㇱ」の下にアシパが着ている衣装は、アニメの中では紫に近い茄子紺か群青色ですが、丁度良い色味の布が無かった為、上衣のパイピングに合わせて紺色にしています。アイヌの服には、和服と違っておくみ(袷の重なり部分)がないそうですが、この服はどう見てもおくみがあるように見えます。

アシパの上衣のアットゥㇱの地色は白ですが、「アットゥㇱ」とは本来木の皮の繊維から作られた独特な織物の事らしいので、実際にはこんな純白ではなく、優しいナチュラルな色合いなのでのではと想像しています。実写映画の中の衣装も、「綺麗過ぎる」と文句を言われていたような。アットゥㇱの袖の巾は、和服の袂程ではないせよ、本当はもっと広いようです。

アイヌの上衣「アットゥㇱ」の装飾と要となるのが、美しいアイヌ刺繍やアップリケ。どの国・民族の衣装にも誇りがあり、その文様には伝統的な意味が込められているから、疎かにすべきではないのですが、私には人間サイズでさえアイヌ刺繍は絶対無理そうなので、アクリル絵の具で描いて誤魔化しています。

アイヌ刺繍にも厄除けの意味があり、きっとアシパの衣装の刺繍も、フチ(おばあちゃん)が願いを込めて刺繍してくれたのに違いありません。アットゥㇱは本当は背面の刺繍がハイライトなのだけど、スルッと省略(苦笑)

鉢巻き「マタンプシ」の文様さえ、刺繍出来る自信がなく手描き。少しでもアシパらしさを感じて自分のモチベを上げる為、このマタンプシと耳飾りを一番最初に作りました。

思えば「キングダム」の羌瘣「進撃の巨人」の始祖ユミルと、何故か「鉢巻き娘」が続きました。

毛皮のブーツのような「ユクケリ」は、原作では鹿の皮で出来ているとあります。私が作った物は、形態が全く間違っていると言う事だけは自分でも知っています。しかし本当のユクケリの構造なんて、例え北海道のアイヌ博物館で実物を見ても分かるはずがありません。

アイヌの鮭の皮のブーツ「チェプケリ」なら、以前札幌の北海道大学の展示で見た事があります。耐久性は無さそうだし獣に齧られそうだと思いましたが、アシパも「油断すると犬に食われる」「(作るのは面倒でも)一冬と持たない」と言っています。夏のアシパは、葡萄の蔓で編んだサンダルのような「ストゥケリ」を履いています。

袖が長過ぎて見えにくいのですが、手甲のカバー「テクンぺ」も一応付けています。

作中では、アシパの幼い従妹オソマちゃんが、旅立つ谷垣源次郎に手製のテクンぺを涙ながらに渡すシーンが印象的です。

タシロ(山刀)、メノコマキリ(女人用小刀)も、テキトウながら手作りました。

現物は刀の柄も鞘も木製で、本来は見事なアイヌの木彫と桜の木の皮の装飾が施されています。このミニチュアの場合、マキリの鞘(厚紙)以外は、またしてもアイスキャンディの棒で出来ています。念の為、自分が食べたアイスの棒ではなく、イギリスで子供の工作用として売られている未使用の棒です。百本入りで1ポンド位。

我ながら一体何のサンプルを見て作ったのか、やたら殺傷能力高そうなタシロにしちゃった…。まるでイギリスの中・高校生達が、学校で持ち歩いているナイフみたい。

メノコマキリは、男性が女性に求愛する際に手作りして贈ったアイテムだそうで、ウェールズのラブ・スプーンに似ていると思いました。その為刀を作るのが下手な男は求婚に応じて貰えず、一方手先が器用なアシパの父はもてたそうです。

 エキムネクワ(山杖)、カリンパウンク()は、庭の白樺の木を切って来て手作り。

アイ()には、爪楊枝に庭で拾って来た小鳥の羽根を貼りました。このアイの矢じりには、作中ではトリカブトの毒が塗ってあるので、取り扱いは要注意です。それ故、巨大なヒグマをも倒す事が出来ます。

本当は弓には、桜の木の皮を巻くそうです。ミニチュアも自然素材から作ると本物に近くて良い…ってな訳でもなくて、樹液がボディに色移りしたりして結構厄介です。 

本当はアシパは、他にもサラ二プ(背負い袋)に矢を入れて持ち歩いていますが、時間も材料もなくてスカッと省略。小道具が増えれば増える程、ポーズを取らせて撮影するのが一層大変なものですから。

ついでに、アシㇼパが育てた幻の白銀の蝦夷狼、レタも登場。アシパの纏う毛皮は、ヒグマに襲われて既に死んでいたレタの親の物です。

…いや、やはりアラスカン・マラミュートにしか見えないか(笑)。

今時の人気のあるアニメは色んな物とコラボしますが、この作品がサンリオをコラボをした時にゃ、ハローキティやマイメロがチタタプやオハウにされるのを思わず想像してしまいました。昨年帰国した際は、衣料メーカーと金カムがコラボしており、入れ墨人皮柄のカーディガンを発売していて目を疑いました()。しかも、地色は肌色!

金カムは元々北海道を舞台にした狩猟漫画として提案されたそうで、それだけでは地味だからと、こんなに面白いストーリーが肉付けされたそうです。その為、猟師料理や食事のシーンが多く登場しますが、生憎私はジビエが苦手で、山菜にも余り惹かれず、この作品を見てゲンジロちゃんのカネ餅以外は食欲の沸いた事がありません。

しかし、分かり易く的確に説明されたアイヌや樺太(サハリン)の先住民族の文化、明治時代の北海道の様子は非常に興味深く、それらを知る貴重な機会です。作者は念入りに北海道で取材を重ね、アイヌ文化に関する描写は専門家も太鼓判を押す程だとか。実際にこの作品の影響で北海道を訪れるファンは多いらしいので、アイヌへの理解・関心と北海道観光に大きく貢献しているそうです。