祝! 漫画「ゴールデンカムイ」実写映画公開。従来の原作ファンにとって実写化がめでたいかどうかは兎も角、主人公「不死身の杉元」を山崎賢人が演じると聞き、正直「またかよ」と思いましたが、…少なくともアシリパ役は、多くの人が「どうせ」(ヒドイ)と思っていたらしい橋本環奈ではありませんでした(笑)。
しかし、舘ひろしの土方歳三の再現ぶりは完璧だし、玉木宏の鶴見中尉の怪演ぶりも楽しそうではあります。私はまたしても当分見る事は出来ませんが、制作は映画「キングダム」シリーズのプロダクションが担当するらしいので、酷い出来にはならないだろうと踏んでいます。
「ゴールデンカムイ」、通称「金カム」は、明治時代後期のゴールドラッシュに沸く北海道を舞台に、強烈な個性の輩がアイヌの莫大な埋蔵金を狙う、野望と陰謀が渦巻く争奪戦活劇です。言うなれば、「北海道ウェスタン」。
埋蔵金の謎を解く暗号が、24人の囚人の背に分割されて刻まれた刺青に隠されている為、人皮を剥がして集めるとかエグイ話も登場しますが、抜群のストーリー引力とキャラクターの面白さ(常軌を逸した変人・奇人多し)で、ぐんぐん物語に引き込まれて行きます。
コミカルなシーンが多いものの、登場人物達の多くは辛い過去や深い心の闇を持っていて、本筋は決して外さない。その描写の絶妙なバランスが、人気の秘訣の一つかも知れません。
今回リカちゃんが着ているのは、そのヒロインで、とある悲願の為に一獲千金の夢を追う主人公・杉元佐一が、相棒として信頼するアイヌの少女「アシリパ」(←「リ」は小文字なのが正式)の衣装です。
アシリパは、勇敢で賢く進歩的・合理的な考えの持ち主。当時のアイヌ女性が家事や刺繍等の衣服系の手仕事に従事するのが一般的だったのに反し、狩猟に励み野山を駆け廻っています。
狩りの知識や経験、弓矢の腕前は既に一流で、単独でヒグマを倒す事も出来ます。アシリパは蒼味掛かった瞳の美少女ですが、美味しい物には目がなく、変顔が得意な明るくひょうきんな性格でもあります。そう言えば、数年前に大英博物館で開催された日本の漫画展で、メイン・グラフィックに登場していたのは、このアシリパさんでした。
リカちゃんがこのコスプレをすると、アシリパ本人よりも大人っぽく見えると思いました。ボディをピュアニーモ・エモーションSに換えているので、尚更そうかも知れません。
アシリパの年齢を、アニメの中では杉元の身長の半分位に描かれている時もあり、最初はすっかり8歳位だろうと思っていました。しかし12歳と知り、ちょっと驚いた記憶があります(…リカちゃんより年上じゃん)。
確かに、アイヌの風習で病魔除けの為のバッチイ幼名から成人名に変わるのが6歳位、それを名付けた父親が殺されてから5年は経っているので、物語の開始時点でも11歳以上と言う事になります。
12歳にもなって「★ンポ先生」や、見知らぬ得体の知れないジジイ(実は土方歳三)の股座で居眠りするのはマズイんじゃあ…。一方実写映画でアシリパを演じる山田杏奈は23歳だそうで、12歳は無理でも15,6歳位には見えます。
漫画やアニメの中の衣装を実現するのは、例え単純化された雛型でも毎回凄く大変ですが、今回はアイヌの民族衣装の基礎知識が必要で、更にアシリパさんは携帯品が多く、特に面倒で途中で何度も投げ出したくなりました~。
上衣「アットゥㇱ」の下にアシリパが着ている衣装は、アニメの中では紫に近い茄子紺か群青色ですが、丁度良い色味の布が無かった為、上衣のパイピングに合わせて紺色にしています。アイヌの服には、和服と違っておくみ(袷の重なり部分)がないそうですが、この服はどう見てもおくみがあるように見えます。
アシリパの上衣のアットゥㇱの地色は白ですが、「アットゥㇱ」とは本来木の皮の繊維から作られた独特な織物の事らしいので、実際にはこんな純白ではなく、優しいナチュラルな色合いなのでのではと想像しています。実写映画の中の衣装も、「綺麗過ぎる」と文句を言われていたような。アットゥㇱの袖の巾は、和服の袂程ではないせよ、本当はもっと広いようです。
アイヌの上衣「アットゥㇱ」の装飾と要となるのが、美しいアイヌ刺繍やアップリケ。どの国・民族の衣装にも誇りがあり、その文様には伝統的な意味が込められているから、疎かにすべきではないのですが、私には人間サイズでさえアイヌ刺繍は絶対無理そうなので、アクリル絵の具で描いて誤魔化しています。
アイヌ刺繍にも厄除けの意味があり、きっとアシリパの衣装の刺繍も、フチ(おばあちゃん)が願いを込めて刺繍してくれたのに違いありません。アットゥㇱは本当は背面の刺繍がハイライトなのだけど、スルッと省略(苦笑)。
鉢巻き「マタンプシ」の文様さえ、刺繍出来る自信がなく手描き。少しでもアシリパらしさを感じて自分のモチベを上げる為、このマタンプシと耳飾りを一番最初に作りました。
思えば「キングダム」の羌瘣、「進撃の巨人」の始祖ユミルと、何故か「鉢巻き娘」が続きました。
毛皮のブーツのような「ユクケリ」は、原作では鹿の皮で出来ているとあります。私が作った物は、形態が全く間違っていると言う事だけは自分でも知っています。しかし本当のユクケリの構造なんて、例え北海道のアイヌ博物館で実物を見ても分かるはずがありません。
アイヌの鮭の皮のブーツ「チェプケリ」なら、以前札幌の北海道大学の展示で見た事があります。耐久性は無さそうだし獣に齧られそうだと思いましたが、アシリパも「油断すると犬に食われる」「(作るのは面倒でも)一冬と持たない」と言っています。夏のアシリパは、葡萄の蔓で編んだサンダルのような「ストゥケリ」を履いています。
袖が長過ぎて見えにくいのですが、手甲のカバー「テクンぺ」も一応付けています。
作中では、アシリパの幼い従妹オソマちゃんが、旅立つ谷垣源次郎に手製のテクンぺを涙ながらに渡すシーンが印象的です。
タシロ(山刀)、メノコマキリ(女人用小刀)も、テキトウながら手作りました。
現物は刀の柄も鞘も木製で、本来は見事なアイヌの木彫と桜の木の皮の装飾が施されています。このミニチュアの場合、マキリの鞘(厚紙)以外は、またしてもアイスキャンディの棒で出来ています。念の為、自分が食べたアイスの棒ではなく、イギリスで子供の工作用として売られている未使用の棒です。百本入りで1ポンド位。
我ながら一体何のサンプルを見て作ったのか、やたら殺傷能力高そうなタシロにしちゃった…。まるでイギリスの中・高校生達が、学校で持ち歩いているナイフみたい。
メノコマキリは、男性が女性に求愛する際に手作りして贈ったアイテムだそうで、ウェールズのラブ・スプーンに似ていると思いました。その為刀を作るのが下手な男は求婚に応じて貰えず、一方手先が器用なアシリパの父はもてたそうです。
エキムネクワ(山杖)、カリンパウンク(弓)は、庭の白樺の木を切って来て手作り。
アイ(矢)には、爪楊枝に庭で拾って来た小鳥の羽根を貼りました。このアイの矢じりには、作中ではトリカブトの毒が塗ってあるので、取り扱いは要注意です。それ故、巨大なヒグマをも倒す事が出来ます。
本当は弓には、桜の木の皮を巻くそうです。ミニチュアも自然素材から作ると本物に近くて良い…ってな訳でもなくて、樹液がボディに色移りしたりして結構厄介です。
本当はアシリパは、他にもサラ二プ(背負い袋)に矢を入れて持ち歩いていますが、時間も材料もなくてスカッと省略。小道具が増えれば増える程、ポーズを取らせて撮影するのが一層大変なものですから。
ついでに、アシㇼパが育てた幻の白銀の蝦夷狼、レタラも登場。アシリパの纏う毛皮は、ヒグマに襲われて既に死んでいたレタラの親の物です。
…いや、やはりアラスカン・マラミュートにしか見えないか(笑)。
今時の人気のあるアニメは色んな物とコラボしますが、この作品がサンリオをコラボをした時にゃ、ハローキティやマイメロがチタタプやオハウにされるのを思わず想像してしまいました。昨年帰国した際は、衣料メーカーと金カムがコラボしており、入れ墨人皮柄のカーディガンを発売していて目を疑いました(爆)。しかも、地色は肌色!
金カムは元々北海道を舞台にした狩猟漫画として提案されたそうで、それだけでは地味だからと、こんなに面白いストーリーが肉付けされたそうです。その為、猟師料理や食事のシーンが多く登場しますが、生憎私はジビエが苦手で、山菜にも余り惹かれず、この作品を見てゲンジロちゃんのカネ餅以外は食欲の沸いた事がありません。
しかし、分かり易く的確に説明されたアイヌや樺太(サハリン)の先住民族の文化、明治時代の北海道の様子は非常に興味深く、それらを知る貴重な機会です。作者は念入りに北海道で取材を重ね、アイヌ文化に関する描写は専門家も太鼓判を押す程だとか。実際にこの作品の影響で北海道を訪れるファンは多いらしいので、アイヌへの理解・関心と北海道観光に大きく貢献しているそうです。
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