2023/08/15

夜空に花畑

 

この浴衣に使用した懐かしくも野暮ったい生地は、随分前にイギリスのフリマで買った端布です。サッカー地にポップな花柄が散ったプリント生地で、ビンテージと呼べばそうかもですが、中途半端な古臭さです。これでドール服を作るのなら浴衣、しかも子供用しか思い浮かびませんでした。

だからモデルは当初リカちゃんを考えていましたが、布地の柄的にはもう少し背の高いお人形用の方が生きると思い、27cmでもレトロ童顔のシンディちゃんを選びました。

薄い生地ですが、目が細かく詰まっていて、思ったより針通りが悪く縫い易くはありませんでした。

シンディをモデルにするとしても、最初は可動域の広い「Sindy Play」にしようかと考えましたが、最終的にビンテージ・シンディに決定。

「Sindy Play」は、ビンテージ・シンディを忠実に再現しているようでも、やはり顔の可愛さやレトロさが本物のビンテージには劣ります。

何はともあれ、この「スターライト」シンディは、我が家のビンテージ・シンディの中でも最も状態が良く、特にべっぴんさんです。

意外と色んな帯が合う浴衣なのですが、もし子供らしい可愛さを目指すのなら、赤のギンガム・チェックの帯とかもイケます。

反対に黒い帯だと、少しだけ大人っぽく見え、また違った表情です。

本当は着物や浴衣のモデル・ドールは、少なくとも腕の広げられる可動域は必要なのですが、このように単純な小さ目の柄が均等に散った浴衣なら、何とかなると思いました。 


私が幼少の頃も、最初はサッカー(またはリップル)生地の浴衣から始まったように記憶しています。帯は、勿論兵児帯。普通の木綿生地の浴衣になった時は、少し嬉しかったと記憶しています。しかしあの昭和レトロな柄の浴衣用サッカー生地にも、今となっては凄~く惹かれます。

 

 

 


2023/08/13

バーナム・ノートンのカルメル会托鉢修道院跡


二月に夫婦で訪れたノーフォーク旅行の二日目で、雰囲気の良い村Cley next the Seaを去った後は、眺めの良い海岸線の道路を西へ進みました。海沿いの道路と言っても、やはり道路と海の間に、陸地とも浜辺とも言い難い湿地帯が大きく広がっていて、本当の海岸は余り見えない状態でした。途中何度か駐車場に車を止めて歩いて海辺に出ようと試みましたが、何処にも無料駐車場がなく諦めました。ちょっとでも仕払って観光を一層楽しもうとは思わん程ケチなのかい?と言われそうですが、イギリスのこう言う場所の場合、ちょっとじゃないんですよ。高い一日分の駐車料金しか設定されていなかったり、料金支払い機のお釣りが出なかったり、カードで払うにしてもまずアプリをダウンロードしろ(しかも非常に分かり辛い)だの、全く鼻持ちならない殿様商売です。その後の移動中、工事か何かで通行止めで、海沿いの道路から離れなければなりませんでした。しかしこの迂回路で、思いがけず面白そうな場所を見掛け、急遽車を止めて見学する事にしました。

それは、修道院の遺跡でした。Burnham Norton  バーナム・ノートンと言う村の南の、牧草地の中の小学校の向かい側にありました。名前は「St. Mary Friary」とも「The Carmelite Friary」と記されており、前者は聖マリア托鉢修道院、後者はカルメル会托鉢修道院と言う意味です。


入場無料なのは道理で、遺跡と言っても現存しているのはこれだけ。門楼の一部と、教会の正面のみです。この他小さな家屋と井戸が残っているそうですが、現在は私有地内の為に見学出来ません。

これら門楼と教会は、19世紀まで村人の礼拝堂や農家の一部として使用されていたらしいので、近世まではもう少し建物らしさが残っていたのだと想像します。

門楼内部には階段が残っていない為、外側に鉄製螺旋階段が備え付けてありました。登った先の扉には鍵が掛って中には入れませんでしたが、この二階が礼拝堂として使用されていたようです。

修道院の敷地自体は広かったらしく、この緩やかな傾斜になった緑地の先の生垣まで続いていたようです。生垣の側には当時の石塀の一部も残っているそうですが、其処までは見に行きませんでした。


 敷地の向こうに、奇妙な建物が見えます。恐らく、風車の土台部分だと思います。

 

修道院を意味する英単語は、私が知る限りmonastery=男子修道院、nunnery=女子修道院、convent=特に女子用の修道院、cloister=特に回廊のある修道院、abbey=大修道院やpriory=小修道院等があります。

イギリスではabbeyprioryが一般的で、現在の地名の一部にも良く使われています。その中でもfriaryは比較的馴染みのない単語で、P太でさえググっていた事があります。


イングランドの修道院のほとんどは、16世紀に国王ヘンリー八世に寄って強制解散させられました。修道院の巨大な勢力を恐れたのと、修道院の財力狙いの為です。丁度それと然程変わらない時代の日本では、織田信長が力を持ち過ぎた比叡山を焼き討ちにしたのが奇遇です。現在イギリスで修道院と名の付く施設の多くは、修道院の礼拝堂のみが教区教会として残っているのにabbeyprioryを名乗り続けていたり、近世に新たに設けられた修道院です。

カルメル会は、元々は13世紀初頭にイスラエル北部のカルメル山に居を構える隠修(隠者)の集団でしたが、戦争で退去を余儀なくされ、1242年にその一部がイングランドに辿り着き托鉢僧となりました。この修道院は1253年に創設され、15世紀初頭までには15人の修道士が暮らしていたと推測されています。社会との接触を極力拒絶した隠修士と異なり、托鉢修道士達は貧しき者に教育を施し、また巡礼者達には修道院を宿泊施設として提供し迎え入れ、一般住民に貢献していました。 

1630年代にヘンリー八世に寄る修道院解散法が始まると、この修道院も終焉を迎えました。強制閉鎖に抵抗する僧侶達は、書くのも憚れる程惨たらしい方法で処刑されましたが、この修道院からも二人が処刑されたそうです。

この3,4㎞先の南には、Creake Abbey と言う修道院の遺跡がもう一つ在り、同じく入場無料で更にファームショップ等の商業施設が併設された、ちょっとした観光施設になっているらしいので、寄れば良かったかなと思います。本当に昔のイングランドは、国王が危惧する程修道院だらけだったのだと実感します。




 


2023/08/11

momoko DOLL「しらゆき/Snow White」

このmomoko DOLL も姉の物で、姉の家に滞在中、姉の力作背景セットで撮影しました。2006年に発売された「しらゆき/Snow White」と言うモモコ・ドールで、元はモノトーンの着物と赤いぽっくり、純白のボアのフード、首にはロザリオ、手には毒リンゴと手鏡を持って販売されました。色白肌に真っ赤なリップ、潔い黒髪ボブが和服姿に映える、それはそれは美しくお洒落なモモコさんでした。

が、モモコとしてはかなり初期のドールだから経年劣化したらしく、やはり首のジョイント部分が溶け掛けてヤバい状態になっています。未だ壊れてはいないのですが、無理に首を傾けるとバキッと行きそうで、出来るだけいじらないように撮影しました。


姉は、この人形を中古のデフォルト服無しのマッパ状態で買ったようです。彼女には着物以外に何が似合うだろうと考えた時、ロックもゴスもばっちり着こなすだろうけれど、アール・デコ調も合うのではないかと思いました。

姉の作ったセットが、どう見てもヨーロッパの古風なお屋敷の中庭風だから、着用するならクラシカルな服だろうと言うのもあります。

この場所でフラッパーな衣装では、アガサ・クリスティの世界(ドロドロの殺人って事だが)が始まってしまいそう。

彼女は、中原淳一風のモモコ・ドール「黄昏のフィアンセ」にも少し似ているので、レトロ・ファッションは色々サマになるのではと思っています。何度見ても、知的でキリリとした美しさが光るモモコさんです。



2023/08/10

キューピッドと青い鳥の丸缶

 

今年のイギリスの二回目のフリーマーケットは、一回目から三週間も経ってから行きました。毎週日曜日に開催されるのに何故そんなに間が開いたかと言えば、一週間後の日曜日はP太の具合が悪くて行けず、二週間後は雨天で中止されたからです。因みにこの二回目の後は、また二週続けてフリマが雨で中止されると言う、悪天候の続いたイギリスです。さてその二回目のフリマも、長い間雨と予報されていた上、実際明朝まで雨が降っていた為、開催時には快晴の割に出店数はかなり少な目でした。そんな出店数の少ない日でも、必ずしも収穫が少ないとは限らず、事実P太は結構収穫があってホクホクでしたが、私は前回に比べると乏しい収穫でした。一回目はビンテージ・ジュエリーにあれ程恵まれたのに、二回目は全く出会わなかったのだから、フリマとはやはり不思議な物です。

その二回目のフリマで唯一出会ったビンテージが、この古い丸い空き缶です。プリントは掠れ気味で傷や凹みもあり、状態が良いとは言えませんが、値段は2ポンドとフリマとしては高目で、頼んでも負けてはくれませんでした。もし収穫の多い日だったら買わなかったかも知れませんが、その日は出費も少なかったので良しとしました。売り主の初老の御夫婦は、この缶の良さに気付いたのは私が初めてだと言って嬉しそうでした。

状態は余り良くないものの、イラスト自体は文句無しに気に入りました。蓋に描かれているのは、愛の使いキューピッドと青い鳥、そしてハートの成る木です。カラフルでポップな色合いも素敵で、明るい幸せな気分にさせてくてます。売り主の話では1960年代の製品だと言う事で、好みの昔絵本っぽい魅力に溢れています。

側面は、青い鳥とハート。その合間に、葉や花のような線画が散っています。

鳥の瞳も、実は花型になっています。

つい最近ツイッターでリストラされた、青い鳥がここにはいっぱい…。ツイッター・ユーザーじゃないけど、「X」の改名のセンスには言葉もありませんww

底には「ROWTREE'S TOKENS」との刻印があり、元はYork ヨーク市に在るお菓子メーカーの缶だったようです。


売り主達にとっては、例え最早不要でも、何か思い出深い缶だったのでしょう。だから値段も下げられなかったし、一応価値の分かる人間に買われて満足だったはずです。私もその後に二体の中古ドールを手に入れたのだから、結局全くの空振りのフリマと言う訳ではありませんでした。



2023/08/08

巫舞の剣士

 

! 映画「キングダム3」公開(…イギリスじゃ観れんけど)。と言う訳で、キングダムのヒロイン羌瘣(きょうかい)の衣装を、リカちゃん人形用に作ってみました。

羌瘣は、紀元前中国・秦国の女性武将で、伝説の女暗殺者集団一族の出身と言う設定になっています。登場当初は、「嫌いな事は喋る事」と言い放つ目付きの怖い子供でした。しかし、それは一般社会から隔離された特別な環境で育ち、過酷な経験を経て復讐のみに心を曇らせていたからで、決してドライでニヒルな性格ではありません

その後、主人公の信が率いる飛信隊の仲間達と交流する内に、心を開き生きる希望を見出し、信の片腕的な慕われる副長になります。

羌瘣は独特な剣術の達人で、その戦闘能力は、超人的な強者揃いのこの話の中でも屈指の高さです。尚且つ頭脳も明晰で、軍師並みの戦略や適格な判断力にも長けています。

加えて眼の覚めるような美貌の持ち主な訳ですが、大喰らいだったり子供の作り方を大きく勘違いしていたり、お茶目な所もある魅力的なキャラクターです。

民族衣装や漫画やアニメの服を作る時、まずその構造から探ります。実物が手元にないと、幾らネットで検索して見ても、服の構造を掴むのは容易ではありません。特にアニメや漫画の衣装は、構造が被服として現実から掛け離れている事も良くあります。しかしドール服の場合、本物と同じ構造に作る必要は全くないのです。

この羌瘣の衣装は、元は①白い袖の長いブラウス(多分前袷)②赤い袖無しの袷の上衣③赤い前後エプロンのような前立て④黄色か白の帯⑤白いスヌードかマフラー⑥文様の入った鉢巻き⑦モモテコのようなダブっとした白いクロップ丈パンツ⑧地下足袋のような白いショート・ブーツ…から成り立っているようです。多分基本的には漢服の原型のような衣装で、どちらかと言うと着物に近い構造だと想像しました。

しかし1/6サイズのドールでは、どんなに薄い布を使用しても、三枚も重ねると布の厚みが出てモタ付いてしまう為、私は①②③は一体化させました。袖付けも、漢服や和服のような直線的な筒袖式ではなく、普通の洋服のようなカーブのある袖ぐりのパターンにしています。

赤い上衣と前立ての装飾の要となるトリミングは、アニメの初期では紫に黄色い縁取りでしたが、現在は黄色に紫の縁取りに変更されていました。原作漫画や映画で確認すると、紫地に黄色(多分金色)の古代文字みたいな文様の刺繍が入っているような仕様です。しかしそんな物が1/6ドール・サイズで、しかもこのイギリスで手に入る訳がないので、私は黄色い綿テープにしました。赤地にこの黄色を合わせると、中国ゥ~って感じが漲ります()

脇のスリットも、どうすれば良いか迷いました。もし着物のような袷であれば、右側(向かって左)のみに開きがある訳ですが、華麗な剣さばきの際にあれ程広がるはずがありません。


また画面に寄っては、右側だけでなく左側にもスリットが入っている場合もあります。もしかして、袷なのに更にスリットが入っている造りなのか??とも思いました。兎に角ポーズを取り易くする為、私は両脇にスリットを入れました。「トーンタンタン」は、絶対させたかったしね。

彼女の暗殺団一族に伝わる殺人技の最奥義は「巫舞(みぶ)」と呼ばれ、その名の通り巫女がクルクル舞い踊るような、目に見えぬ程の速度と跳躍力で人を斬る恐ろしい剣術です。

「トーンタンタン」は、その時の合図と言うか調子を整える為の拍子です。

ただし巫舞は、呼吸を殺して神憑りなトランス状態になる為、持久力には乏しく長期戦には全く不向き。更に体力消耗が激しいので、この術を使った後しばらくは戦線離脱を余儀なくされます。

 「トーンタンタン」には欠かせない、羌瘣の愛剣「緑穂(りょくすい)」とその鞘も制作しました。土台の材料は、アイスキャンディの棒と厚紙! 

我ながらすっごい稚拙ですが、制作自体は楽しかったし、自分で初めて作ったドール用剣だから、それなりに愛おしく感じます。鞘は、もう少し小さく作るべきでした。

この衣装が実際に戦闘に向いているかどうかは兎も角、謎めいた巫女っぽさがあり、ひらひらした長い袖や翻る裾など、彼女の動作の魅力を最大限に見せるよう考えらていると思いました。ドール用でも上衣や前立ての裾は、黄色い綿テープのお陰で張りが出て、躍動感を加えるのに役に立っています。

ただし甘い顔立ちのリカちゃん+あんこ型のピュアニーモSボディでは、どう頑張っても強く見えないのが難点。可動域にも限界があるし、例えポーズ自体は中々上手く出来たと思っても、何せスタンドを使ってさえ立たせる事すら難しく(特に一本足は無理~)大変苦労しました。

漫画やアニメの実写化は山程ありますが、良作は勿論、ツッコミ処が楽しいので駄作も含め、概ね全てに興味があります。その中でも映画版「キングダム」は、最も成功している作品のようです。

中国本土で大掛かりな戦闘ロケをする、邦画としては破格の予算の掛け方ですし、役者もイメージに合った贅沢な顔ぶれが揃っています。何よりキャラクターの再現度が中々素晴らしく、長いストーリーを無理に端折るのではなく適度に区切り纏めている点も正解で、改めて実写版の成功の鍵は原作へのリスペクトだと思い知らされます。

おまけ。実家には、何故か「河了貂也~」の蓑ような物が長年飾ってあります。セリアのあのドール・ボディの手足を付けるのに、ぴったりな大きさ。こう言う意味不明なお土産物って、結構あちこちで売られていますよね??