五月、それはイギリスで最も気候の良い、庭の最も美しい季節だと確信しています。バラを始めイングリッシュ・ガーデンの代表的な植物もこの時期に咲き揃い、有名なチェルシー・フラワー・ショーが開催されるのもこの季節。庭園だけでなく、イギリスの家並みや風景も、この季節が一番絵になると感じます。
五月から六月に掛けて我が家の庭も刻刻と変化し、勿論手入れも忙しい時期です。晴れた日には、欠かず写真を撮らねばならない程です。
例え四季咲き、または返り咲きのバラであっても、一気にぶわっと咲き揃う訳ではなく、品種や立地、生育条件に寄って開花時期は様々です。だからこそ、どんどん庭が変化して見飽きないとも言えます。
我が家の庭で今年最初に咲いたバラは、R(ランブラー)の黄八重モッコウバラ、すなわちレディ・バンクス・ローズで、四月下旬には既に咲き始めました。それは予想通りで、元々普通のバラより一早く開花する品種として知られています。
思い描いていた通り、こんもりと茂って花をたっぷりに付けてくれました。四季咲きじゃないのは残念ですが、その分一季咲きのバラは花期が長いようです。
モッコウバラの剪定は花の終わった時の年に一度のみで、今年はその時期に日本に一時帰国しなかった為ようやく剪定する事が出来ました。今は大きく刈り取られ、大分すっきりした姿になっています。
しかし、他の幾つかのバラも、今年はモッコウバラに負けない早さで咲き出しました。R「オープン・アーム」がその一つで、ランブラーとしては小ぶりだそうですが、物凄い大株に育っています。
作り物のような蛍光掛かったピンク色が可愛く、これから初冬まで休まず大量の花を付けます。このバラだけは、花弁が小さいし咲いている位置は高いしで、花殻摘みは面倒臭過ぎてすっ飛ばさせて貰っています。
HT(ハイブリット・ティー)「スパークリング・レッド」(推定)も、同じ頃咲き始めました。やはり高い場所に在る蔓バラだと、日当たりも良く開花が早いようです。今は既に最初の開花期が一旦終わり、花が少なくなっています。
ER(イングリッシュ・ローズ)「ザ・ハーバリスト」とFB(フロリバンダ)「ブルー・フォー・ユー」も、続いて咲き始めました。
その「ザ・ハーバリスト」も、今は最初の花期が終わりつつあります。昨年日本から戻った時(六月下旬)には、最早花が一つも咲いていない状態でした。本来微香だそうですが、我が家のはオールド・ローズ系の香りが強めです。
ERの強香の代表「ガートルート・ジェイキル」は、蔓バラにしてから花付きがずっと良くなりました。
我が家のER「ハイド・ホール」は、いつも一番最後位に咲き始めます。しかし、花数の多さはトップ・クラス。
数年前に増設した花壇に植えたランブラーER「ザ・レディ・オブ・ザ・レイク」は、すっかり蔓バラらしく育っています。しかし何せクライマーではなくランブラーなので、何処まで大きくなるのか覚悟しなければなりません。
この花壇にはギャップ・フィラー(隙間埋め)としてニゲラとマトリカリアを植えましたが、ニゲラが育ち過ぎてしまい、ラベンダー等の生育を妨げているので引っこ抜きました。
もう一つ、この花壇に植えている蔓バラで、我が家には少ない赤バラのHT「ポールズ・スカーレット」は、亡き義父が持って来てくれた物。順調に花を付けシュートも伸びて来ているものの、未だ蔓バラらしくは育っていません。
ER「モリニュー」は、今年はやたら酸っぱい黄色に咲きました。
三、四月と雨が異様に少なく、庭の水撒きも大変でしたが、五月に入って行っ一定数の雨が降るようになりました。雨上がりの庭にも、独特な美しさがあります。
我が家で唯一のOR(オールド・ローズ)の「マダム・イザーク・ぺレール」(推定)は、ころんと丸い蕾が可愛い。
花が開くと、意外にも花びらの端が反り返った剣弁咲き(高心ではない)です。青味の強い濃いピンク色が一際目を引き、ラズベリーのようなフルーティーな強いオールド・ローズ香は絶品。どうも私は、鮮やかなピンクのバラに一番惹かれるようです。
その一方で、ER「スカボロー・フェア」とER「ザ・ラーク・アセンディング」の繊細な花色は別格です。
今は、シャクヤクも咲き始めました。
気候変動やアジア産スズメバチの出現で、イギリスのミツバチやマルハナバチが激減していると聞きます。しかし我が家の庭は、ハチの羽音が絶えません。
イギリスはガーデニングの国として知られているでしょうが、近所の裏庭を見渡すと、植物を愛でて育てている家は思いの他の少なさです。多くは、例え芝生やペイヴィングで良く手入れされてはいても、大抵は単なる休憩場所か子供の遊び場で、せいぜい飾りとして鉢植えやハンギング・バスケットが数個置いてある程度。こんなに花が少なくては、ハチが激減しているのも頷けます。
ところで、今年のバラはアブラムシがとんでもなく多い! …いえ、二年続けてこの時期のイギリスに居なかったので、今年が特に多いのかは定かではありません。
毎日毎日、指でプチプチと潰していますが追い付きません。結局これが、オーガニックで最も確実な方法です。蕾が膨らんだ後に薬剤を吹き付けると、花色が傷んでしまいますから。
勿論ゴム手袋を嵌めて潰していますが、体液がゴムから染み出て指に付く程の多さ(苦笑)。義母からは「うえ~」と気味悪がられましたが、一日見逃すだけでバラの花芽をダメにされる事もあるので躊躇はしていられません。
アブラムシを捕食してくれるはずのテントウムシは、一体何処に居るのか、とんと見掛けません。
アブラムシは人間を刺したり噛んだりは決してしませんが、このプチプチ行為を続けていると、何だか体中が痒くなって来る気分。毎夜寝る時に、「今日も大量に殺したなあ…」としみじみ思い出しながら眠りに付きます。
まだまだやるべき庭仕事は山程ありますが、これからイギリスでも暑くなるので、今よりは勤しめなくなります。夏の気温は日本に比べたらずっと低い割に、太陽の位置が高く日没時間も凄く遅いだけに、日差しの厳しさは意外と半端ないからです。