昨年の晩秋に夫婦で訪れたPeak District ピーク地方国立公園での最後の目的地は、公園内南部のArbor Low Stone Circle アーバー・ロウ環状列石でした。ピーク地方には先史時代の遺跡が点在しており、環状列石も幾つか発見されていますが、これはその中でも「北のストーンヘンジ」と呼ばれる最大で一番見応えのある物のようです。
主要道路を通らず、田舎道をのんびりと気ままに進みます。何せこの日もお天気は抜群だし、やはり流石は国立公園内で何処を通過しても景色を楽しるからです。相変わらず、見晴らしの良いあちこちで停車して撮影します。
後から調べた所、ここはSlipperlow Lane スリッパ―ロウ・レーンと言う道のようです。
見下ろす村は、多分Taddington タディントン。
古代遺跡は丘の頂上に築かれる事が多く、この近くの丘にも新石器時代の古墳の剥き出しの石室が在るそうです。
アーバー・ロウ環状列石の入り口に到着。一軒のB&B兼農家が立っているだけの、辺り一面緩やかな丘陵地帯に広がる牧草地です。
遺跡はEH(イングリッシュ・ヘリテイジ)管理ですが、入場は無料。ただし入り口には募金箱があり、一人に付き1ポンド寄付する事が推奨されています。しかしこの募金箱が余りにもみすぼらしく朽ち果てていて、これ自体が遺跡のようで本当に現役なのか?と疑いました。
ここからB&Bを横切り、ほぼ石塀沿いに牧草地を通って、丘の上の遺跡に向かいます。
ウェセックスの旅での経験を反省し、今回は防水タイプのスニーカーを履いて来ました。が、それさえも嘲笑うかの如く、牧草地は沈むのではと不安になる程のドロドロの泥濘。おまけに、牧草地だから当然家畜の糞がいっぱい。ついでに農家の牛舎からは、頭がくらくらする程の強烈なアンモニア臭も…。
土塁の少し盛り上がって見える部分が、我々の目指している遺跡です。
泥濘と糞を出来るだけ避けて、ある意味緊張しながら歩き(笑)、遺跡に到着。
このアーバー・ロウは、BC2500年頃の後期新石器時代に築かれ、次の青銅器時代まで千年以上使用されたと言われています。環状列石の周囲を、ヘンジと呼ばれる円型の土塁と溝(空堀)が囲んでいます。
古代の人々は、大抵眺望の利く場所に儀式祭礼の施設、埋葬地、住居や砦等を築きたがりました。イギリスの場合、それら遺跡の周囲の風景が、恐らく建設&使用当時と大差ないまま残っている事があります。
ここも例に漏れず、期待通り今でも眺めの良い立地でした。
が、こんな巨大な遺跡全体を把握するのは、やはり地上からでは中々難しい。こう言う場合、鳥やドローンには敵わねーなと実感します。
この説明板の再現イラストの方が、環状列石の全容を余程実感し易いのではと思います。
そして環状列石の石自体は、ここでは何故か全て地面にのめり込むように倒れています。こう言う古代遺跡の石は、後の中世や近代に石材として持ち去られてしまった事も多いので、ここは残っているだけマシです。全部で、50個の石灰岩が並んでいるそうです。
円の中央の石は、環状列石とは別にCove コ゚ーヴと呼ばれています。これも元は立石でしたが、今は寝ています。
巨石が立っていない分、同じ巨大環状列石とは言え、正直ウィルトシャーのエイヴベリーや湖水地方のキャッスルリッジ程は感動的ではありませんでした。
しかし環状列石を囲むヘンジには相当高低差があり、重機器の無かった古代の土木工事の迫力を見せ付けます。
土塁の東側の一際盛り上がった部分は、後の青銅器時代に築かれた円墳だそうです。
ヘンジの外側には、地面の少しだけ高くなった道のような部分があり、Avenue アベニューと呼ばれる古代の運搬道路だそうです。
そして実は、この環状列石の南西300mには、もう一つの古代遺跡があります。
それがこの、青銅器時代の円墳Gib Hill ギブ・ヒルです。仁徳天皇陵等の前方後円墳を知っている日本人にとっては「そうなんだ」と思う程度ですが、イギリスの古墳としては巨大とされています。
周囲には羊がいっぱい。
余程考古学に興味のある人じゃない限り、牧草地に唐突に盛り上がった土饅頭にしか見えません。大抵の人は、これが不自然で人口の丘だとは気になる事もなく、まして約四千年前に築かれた埋葬地だとは気付かないはずです。
丘の頂上にも登って見ました。思った通り、ここからの眺めも抜群です。
頂上にはボコボコに窪みのある石(多分石灰岩)が、何故か嵌め込まれていました。
丘の側面にも、幾つかの石が。もしかしたら、古墳は元は石葺きだったのかも知れません。
恐らく昔は、この周辺には他にも古墳が何基か存在したのでは?と想像します。
「遺跡の側に遺跡在り」は、ある意味常識。
実際この古墳は、新石器時代の楕円墳(そんな単語、存在する訳がなく、今勝手に作ってみました)の上に、青銅器時代の円墳が増設されたと考えられています。
眺望が利く等の人を惹き付ける立地は、いつの時代も特別に霊的な場所として重宝がられていたのだと思います。
特に、先史時代に軍事的に重要だった場所は、その後のローマ、中世、近世どころか、第二次世界大戦時、冷戦時にも軍事利用された例が多々あります。
この時、偶然空には天使の羽根のような雲と太陽のプリズムような光が見え、確かにスピリチュアルな雰囲気を高めているようにも思えました。
帰路の高速道路の交通状況は相変わらず酷かったけれど、この時の旅行も本当に充実して楽しかったなあ…しみじみ。やはり始終快晴だった事が大きく、今考えると、昨年はイギリスの晩秋には珍しく、天気の良い日が例外的に多かったのだと思います。今なんて、二週間天気予報が見事に全て雨マークで埋まっていますから。
0 件のコメント:
コメントを投稿