昨年、一昨年と日本に一時帰国した際、東京の姉の家から福島の実家に帰る前に、姉がiPadでアマゾン・プライム等の配信見放題サイトを閲覧可能に設定して持たせてくれたお陰で、非常に助かりました。これ程欠かせない物になるとは、最初は自分でも思っていませんでした。福島の実家では、夜7時頃に家事を全て終えると他に娯楽もなく、専ら自室に閉じ籠ってこれらを見るのが唯一の安らぎと楽しみになりましたから。両親とはTV番組の好みも音量も全く合わず、実家には自室以外に片付いて落ち着ける場所も無く(滞在中に物置化していた他の部屋も人類の足の踏み入れる程度には片付けたが)、正直両親と団らんする機会は食事時以外余りありませんでした。
アマプラで、それまで見たいと思っていた日本の映画、ドラマ、アニメを一気に見る事が出来ました。アニメの多くは、本当はイギリスに住んでいてもアメリカのアニメ定額見放題サイト「Crunchy Roll」、またはアマプラやネトフリでも見る事が出来るのですが、P太がVRに夢中になって以来アニメを余り見なくなり、更にTVをモニターとして占領する為、それすら見る機会がほとんどなくなっていました(今は自分のパソコンで見ています)。
その沢山見たアニメの中で、断トツに素晴らしい作品と思って人に薦めたいのが、2022年制作の「平家物語」です。放送当時からメディアや周りの人々からの評判が良く、是非見たいと思っていましたが、その時は上記の見放題サイトでは配信されていませんでした(※日本と海外のアマプラでは内容が違う)。他にも印象に残る結構夢中になって楽しめたアニメは幾つかありましたが、何せ完結していないので、「素晴らしい作品」とは言い切る事は出来ません。その点この「平家物語」は、11話1クールで完結しています。
原作は、誰もが学校で習う御馴染みの「祇園精舎のぉぉ~♪」のアレで、古川日出夫の現代語訳を元にしているそうです。それに平家一族に深く関わる琵琶弾きで不思議な力を持つ、架空のキャラクターの「びわ」と言う名の少女(CV:悠木碧)を加え、感情移入し易く分かり易く話が展開します。しかもあくまでドラマとして描かれているので、古典文学の学習教材的な説明っぽさは全くありません。
私は歴史が好きなので、平家物語自体も元にした時代劇も、その派生作品と言える小説も、解説やコラムも一通り読んで来て頭に入っているつもりでした。しかし、正直このアニメ程心に響いた事はありませんでした。
絵柄は瞳が大きくキラキラした典型的な漫画風ではなく、絵巻を思わせるあっさりした和風になっていて、尚且つセル・アニメの持ち味にちゃんと合っています。色調も、渋く優しくて雅な雰囲気。アニメの色彩設計って、自分にとってつくづく重要です。「聲の形」の山田尚子が監督を務め、キャラクター・デザインの原案を高野文子が担当しています。この中の、清盛の次に平家の棟梁となる平宗盛(※異母兄の嫡男重盛が早世した為)が、無能でヤな奴な上に非常に冴えない容姿で描かれていますが、実は残されている肖像画そっくりと後から知って笑いました。
平家物語に登場する女性と言えば、多くの人が真っ先に思い出すのは建礼門院こと平徳子だと思います。しかし原作の徳子は、親の言いつけのままに帝に嫁ぎ東宮を産み、壇ノ浦でも覚悟が足りない為に自死し切れなかったとも言われ、時代に流されるのみでヒロインにしては印象が薄く、共感しろと言われても中々難しい登場人物です。
ところがこのアニメでは、自我のしっかりした聡明で献身的な女性として、徳子の人柄がはっきりと描かれている為、彼女の悲惨な運命が一層胸に迫ります。早見沙織さんが担当している、ふんわりと優しく美しい徳子の声を聞いただけで、主人公のびわが初見から心を許し懐くのも納得出来る程の魅力が感じられます。
この作品で唯一気になるのが、後半に登場する源義経(CV:梶裕貴)が、やたらイケメン過ぎる事。義経が男前なのはドラマや小説では定番ですが、恋仲になる静御前より美しく描かれているのは流石に気になります(笑)。
義経は実は醜男だったと言う説もあり、以前パロディでステレオタイプな牛若丸を描いたら、「知らないんですか?義経ってブ男だったんですよ」と得意気に言われた事があります。そう言う貴女も実際に会った訳でもあるまいに…と、苦笑するしかありませんでした。
ついでに、平家物語の美少年と言えば平敦盛(CV:村瀬歩)。和蘭のアツモリソウやクマガイソウって、ここから名前が来ているのだと改めて思いました。
「羊文学」に寄るOPも、最初は古典や歴史的な内容に余り似合っていないように思えるのに、聴けば聴く程映像や作品の世界感にピッタリ合っていてエモくて大好きです。
兎に角この平家物語のアニメの出来が凄く良くて、イギリスに帰って来て英語字幕付きで再び全話見ましたが、やっぱり傑作です。ついでに、同じ制作会社「サイエンスSARU」の映画「犬王」も、日本滞在中に見ました。室町時代を舞台にしたアニメなんて、それまで「一休さん」位しか存在しなかったと思いますが(今なら「逃げ若」もある)、斬新で衝撃的な作品だと義兄も驚いていました。ええ、「ダンダダン」も見ていましたとも。
日本のTVアニメ・シリーズは、基本的に一年を四季で三ヵ月分毎に割って1シーズンとし、シーズン毎に50本近い作品が放送されるそうです。1シーズンは概ね毎週更新×11~13話の1クールが今は一般的で、中には半年分の2クールの場合もあります。その中で自分が興味を持って観るのは、せいぜい1シーズンにつき2~3本です。異世界転生モノ(最近は悪役令嬢転生も多いな)や長いタイトル系は、故意に避けているつもりはなくとも、どうしても興味が持てなくて見た事がありません。例え面白そうで見始めたシリーズでも、途中で飽きて見続けるのを耐えられなくなるアニメもあり、それは自分にとって相当な駄作である事を意味します。
アニメの多くは単行本が数十巻に渡る人気漫画を原作として、しかも大抵原作自体が終了していない時点でアニメ化が開始されます。しかし、漫画原作のアニメ化の多数が、例え人気が高くても、諸事情に寄り2シーズン位までで尻切れになってしまっています。例えアニメで一応話が結末を迎えるとしても、原作より大幅に省略されている場合もあります。最後まで原作のストーリーがアニメできちんと描かれる作品は、極限られているように思います。
人気漫画が原作のアニメは当然話題性も高く、実際に面白い物が沢山あります。しかし、この平家物語のような、漫画やゲーム、ラノベ原作以外の一見余りアニメらしくないアイディア・ソースからの新鮮な、また日本古来の文化を世界に伝えるような作品も、増えて行って欲しいと密かに願っています。
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