昨年の夏に訪れたNT(ナショナルトラスト)のBasildon Park バジルドン・パークで、館の内部を見学しています。
お屋敷にお客を招待した場合、最も重要な部屋の一つは晩餐室だと思います。
それ故、ここの装飾には特に力が入れられています。天井画も、この通り。
裕福者の家庭では良く食器を特注して作らせ、オリジナル・デザインや家紋入りの食器を使用しますが、このアイライフ家もその通りでした。
しかし、財政難の折に館と共に手放したようで、その食器が後に廻り回って何故かスウェーデンのオークションに掛けられていたのを、NTが見付けて買い戻したとの事です。
主寝室の一つと思われる部屋。イギリスでは高貴とされるバーガンディーと呼ばれる深い赤が、この部屋のテーマ・カラーです。
アイライフ夫人は家庭的でクリエイティブな女性だったようで、この刺繍付きラグは夫人のお手製だそうです。
一方こちらの寝室は、東洋風がテーマ。
立派な中国の螺鈿の衝立が置かれています。
壁には、日本製らしき屏風を額装した物。
この電灯になった女性の人形の清朝の衣装も夫人の手作りだそうで、ドール好きとしては服の造りの正確さや丁寧さ、センスの良さに驚きました。
その手前に在る、鳥籠の中の鳥がさえずる仕掛けのオートマタ。古物番組やアンティーク・フェアで時々似た物を見掛けますが、小鳥が凄く可愛いのです。
清朝の女性人形の対になるのが、ベッドサイド・テーブルに乗ったこの男性人形。
顔を良く見ると、…なななな何故竹中直人氏がここに⁈
この館で最も印象的だったのが、この「貝の部屋」です。
日本風に言うと8畳程度の大きさですが、大小の貝殻でびっしり埋め尽くされています。
アイライフ夫人が、趣味でコツコツと集めたそうです。恐らく南海の貴重な物は購入したり、自ら浜辺で拾い集めたりもしたようです。
かなり大きく高価そうなベツレヘムの名産の繊細な貝細工も、コレクションに加えられています。
作り付けの棚の中に並べられている大きな貝もあれば、極小の貝は壁や家具に装飾されています。一つ間違えれば海辺のキッチュなお土産風ですが(それはそれで好きだけど)、ここまで極めると圧巻。
これ程熱心に集めたのだから、きっと自分の子供に近い愛おしい存在だったのに違いなく、この館と共にこれらの貝殻を手放す時は、さぞかし断腸の思いだったのではと想像します。
こちらの寝室は、まるで砂糖菓子のように甘ったるいシュガーピンクの壁色。
祠のような壁の窪みの空間にベッドが収まってて、妙な安心感があり面白いと思いました。
この部屋にも、夫人のお手製らしい貝細工が。一瞬、散らし寿司のように見えなくもありませんが。
また、これも夫人作らしいレース編みが貼り付けられたアルバムも。
やたら広々とした浴室。中央の丸テーブルは、多分ここでお茶をした訳ではなく、じっくりお化粧や美容を整えるのに使用したと思われます。
この部屋は、画家Graham Sutherland グレアム・サザーランドのギャラリーになっています。彼は、第二次世界大戦時にドイツに爆撃された破壊され、全く新しいスタイルで再建されたコ゚ヴェントリー大聖堂に、巨大なタペストリーを制作しました。破壊された大聖堂の隣にはアイライフ家の経営する新聞社が在った所縁で、タペストリーのデザイン画や下絵等が展示されているそうです。
庶民の感覚とはかけ離れ過ぎた、単なる博物館にしか見えない他の貴族の大邸宅とは違い、実際の住人が暮らしを楽しんでいた生活感がここでは感じられました。これもそれもアイライフ夫人のドメスティックなセンスの良さに好感が持てたお陰で、予想外に興味深かったバジルドン・パークです。
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