2024/03/20

春の彼岸の削り花

 

今日春分の日はお彼岸の中日ですので、私の故郷のお墓参りの風習の話題にしました。私の実家の在る福島県中部の春のお彼岸では、木をカンナで薄く削って色を染めた物を花びらに見立て、それを竹串に刺した、一見風車のような造花を墓に供えるのが一般的です。正式な名前は特にないようですが、削り花とか(春の)彼岸花とか呼ばれているようです。この他、柔らかい紙をくしゃくしゃに丸めて色を染めて花に見立てたタイプも、昔は存在したように記憶していますが、こちらは今は見なくなりました。どちらも非常に原始的で稚拙で粗末な造りで、ギリギリ花を表していると認識出来る見た目ですが、大量生産のプラスティック製の造花とは全く違う、素朴な温かさと優しさがあります。現在なら真冬でもハウス栽培の生花を簡単に買えますが、寒冷地では三月でさえ生花が手に入らなかった昔、少しでも先祖の墓に彩を添えて故人の霊を慰めようと考えた、精一杯の工夫だったようです。

ところが昨年実家に滞在していた時の春のお彼岸の際、この削り花が何処でも売り切れで、あちこちの店を探し回りました。近所のスーパーでは、代用品として紙にプリントの削り花擬きが売られていましたが、本物とは似ても似つかぬ許せない安っぽさでした(しかし安くない)。返って生花を手に入れる方が楽でしたが、この季節では墓前に花を供える為の竹筒の水が未だ凍ってしまう事もあり、年老いた両親は納得しませんでした。

この春のお彼岸の削り花、試しにググってみたら、春の遅い東北地方等の北国全般の風習かと思いきや、一般的なのは東北、更に福島県内でも限られた地域のみなのだそうです。また、素材や作る工程は大体同じでも、形態が地域に寄って色々と異なるようです。自分にとっては御馴染みの存在が、実は民俗学的にかなり興味深い物でした。一応総手作りですし、作り手はどんどん減って来ている物と思われます。もしいつかこの削り花が福島の春の景色から消えてしまったら、やはり悲しいとは思います。(撮影地:三春町滝桜近くの集落の墓地)

 

 

 


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