観光地で有名なRye ライの東側から、骸骨教会で有名な(あんまりだ)Hythe ハイスに掛けては、Romney Marsh ロムニー・マーシュ、Walland Marsh ウォランド・マーシュと呼ばれる非常に海抜の低い平地が続いています。元々「marsh」とは湿地の意味で、古来この一帯は海の氾濫原でした。しかし、ロムニー・マーシュは古代ローマ時代に、ウォランド・マーシュは中世に干拓され、現在は主に羊の放牧地になっています。このイギリスの原風景的な長閑な田園地帯には、中世の小さな趣深い教会が点在し、そんな教会巡りも密かに人気です。その中でも特に印象的でアイコン的な教会が、昨年の夏に訪れたトーマス・ア・ベケット教会です。それまでも訪れようと試みた事はありましたが、何せナビが機能しない牧草地のド真ん中にポツンと立つ為、辿り着く事が出来ませんでした。
最寄り公道は、こんな車がすれ違うのもやっとに見える細い農道。駐車場はありませんが、道路脇に車を止めるスペースがあります。
其処から牧草地内の遊歩道を通って、教会に向かいます。
遊歩道に入ると、教会はすぐに目に入りました。遊歩道は一応手入れされていますが、教会の礼拝は二週に一度だけだし、こんな人口密度の低い場所では通う信者は殊更少ないと見え、草も大分伸びていました。
真っ平らな土地だから、ドライブ中に遠方からでも教会が見付けられるだろうと思いきや、道路脇にはイギリス特有のサンザシの生垣が沿い、更に教会自体も背が低いので、意外と見付け辛いようです。
辺り一面、こんな草原と言うか牧草地。高く伸びた夏草が風にそよぎ、波か羊の毛並みのよう。近辺には集落すらなく、農家がぽつぽつと立つのみです。
牧草地には小川と言うか水路が張り巡らされていて、更に遊歩道以外は草の背丈が高過ぎダニにでも食われたら大事なので、好き勝手に進める訳ではありません。
教会へは、水路に掛かる木橋を通って行きます。
北側から、教会に近付いて行きます。この教会は、「St Thomas Becket Church, Fairfield フェアフィールド村のセイント・トーマス・ベケット教会」、または「Church of St Thomas a Becket」と呼ばれ、12世紀後半に建てられました。トーマス・(ア・)ベケットの名は、12世紀に国王ヘンリー二世と対立し、暗殺され殉教者及び聖人となった、カンタベリー大聖堂の大司教に因みます。
東側。下部は煉瓦造り、上部は木造。内部は、木組み+漆喰壁のようです。これらは、18世紀に大きく修復されました。
東の祭壇部分には、小さなステンドグラスが嵌め込まれているのが分かります。
妙に現実離れした光景で、我ながら写真ではなく絵画のようだと思いました。こんな印象的な教会なので、TVや映画の撮影にも度々使われるそうです。
独特な立地の上、天候に寄っては非常に映える為、長時間粘って写真を撮るアマチュア・カメラマンも少なくないようです。
教会の入り口は、ぐるっと回って南側にあります。鍵が掛かっていましたが、時々内部を公開している事もありますし、予め近隣(と言っても1㎞近く離れているかも)の管理人に連絡すると、開けて貰えるそうです。
窓から中を覗いてみたところ、壁が分厚いせいか、一層こじんまり見えました。18世紀の内装が、そのまま残っていて興味深いそうです。
南側にも木橋が架かり、公道からの遊歩道が続いていたようですが、木橋の先は草が深く茂って長年使われていないようでした。
教会の周りには寄贈された墓碑代わりのベンチが設置されているものの、草が深過ぎて座れない…。(※ダニは本当に怖いです!)
南側と西側は、水路に囲まれ夏草も深く、引いて写真を撮る場所がありませんでした。
西側。遠景から撮影しています。
西側の塔は木造。
俗世からわざと遠く離れたような特別な立地の教会は、世の中に結構存在するものの、私が山育ちなせいか、小高い丘の上に一軒だけ立つ教会より、こんな見渡す限り平坦な土地の教会の方が一層孤独に見えます。夏なのに薄い日差しに照らされそよぐ夏草が、更に哀愁を感じさせました。洪水被害がどんどん増えて来ている今のイギリスでは、こんな海抜の低い牧草地は雨季の冬が来る度に水没しますし、その上ここは元々干拓地。この貴重な教会が、気候変動の被害に遭わず、ずっと無事である事を祈っています。
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