今回湖水地方の旅が決定した時、宿泊先を選ぶのは重要な問題でした。もし我々夫婦二人だけであれば、こじんまりしたB&Bやイン(一階がパブになった旅籠)を好んで選びますが、それらは普通の家屋に近い古い建物を利用している事が多い為、急な階段を登らねばならなかったり段差が多かったりするので、歩くのが不自由な義母には極めて不向きです。しかし大きなホテルは概ね宿泊料が高く、特に湖水地方は英国観光の筆頭の一つですから、イギリスの他の地域と比べても宿泊料が割高です。更に障がい者向きの宿泊所となると、選択の幅は非常に限られます。湖水地方でも国立公園内は宿が一層高く、少しでも外れると安くなります。特に、南部のBarrow-in-Furnessの周辺は、割と安くて空室も多く見付かります(要は人気がない)。もし新しい建物の大手チェーンのシティ・ホテルであれば、エレベーターも完備しているはずだし、義母にも問題ないだろうと思いました。丁度そんなホテルで予約サイトの最高得点クラスをBarrow-in-Furnessの中心部に見付けましたが、味気ないし建物内にレストランがないからとP太が却下しました。そりゃ飲食場所がホテル内にあった方が便利に決まっていますが、街中なら義母でも移動出来るよう、組み立て式の電動車椅子も一応持って行く予定なのです。
そんな検索中に、国立公園の東の高速道路M6号線の出口近くと言う便利な立地に、障がい者向けの設備の整った大きなホテルを発見。しかも、湖水地方の宿としては破格にお得。建物内に、夕食の取れるレストランも完備。写真を見ると1960~70年代築位のリゾート・ホテルで、昔の全国道路地図にも名前が掲載されている程です。予約サイトでのスコアは「GOOD」で、正直そのサイトでの「GOOD」の評価のホテルは、経験上十分難有りでした。それ故に、点数「GOOD」以下のホテルは選んだ事がありません。中途半端に古いリゾート・ホテルで採点は「GOOD」と言う事で、即座に昨年宿泊したハイランドのホテルを思い出し、不安はありました。しかし、利用者のレビューを読み具体的な問題点を把握し(隣の部屋の犬がうるさいとか、行くまでの道路がボコボコだとかだった)、我々にとっては特に大きな問題ではなさそうだったので、最終的にこのホテルに決定しました。
ホテル名を「Shap Wells Hotel シャップ・ウェルズ・ホテル」と言い、湖水地方東部のShapと言う村の南、高速M6号線の最高峰地点Shap Summitの側にあります。M6号線と国道クラスのA6号線、更に首都圏とスコットランドを結ぶ主要鉄道路線に挟まれた立地ですが、騒音は全くありません。周囲は農家が時折点在するだけの見渡す限り物凄く寂しい荒野で、その谷間のようになった窪んだ部分にぽつんと在り、車以外の移動は絶対無理です。「高原にいらっしゃい」と言う、古いドラマを思い出しました。建物は駐車場になった中庭を囲んだほぼロの字型で、団体旅行者も利用する程大きなホテルです。ただしレビューにあった通り、幹線道路からホテルへ続く細い一本道は見事に穴ボコだらけで、夜間に運転するのは危険過ぎると思いました。
谷底なだけに、ホテルのすぐ脇を清流が流れています。
正面玄関のドア等のあちこちが、アール・デコ様式になっています。しかし現在の建物は、1960年代に建てられたそうです。創業は1833年で、かつては王族も利用した事のある名誉あるスパ・リゾート・ホテルだったそうです。
レセプションは豪華っぽく改装されていますが、この動物愛護活動が盛んなイギリスで、動物の剥製が沢山飾ってあるセンスに古さを感じます。
ラウンジは幾つかの部屋に分かれてやたら広く、あちこちのキャビネットでジュエリーが展示され販売されている…と言う点も、ハイランドのホテルの怪しいサイド・ビジネスを思い出させます。
エレベーターは透明ガラスで囲まれていて、一階と二階(以上)では開くドアの異なるのがちょっと面白い造りです。
我々夫婦の部屋は二階で、こんな感じでした。広さと清潔感は十分あり、調度も悪くなく、室温、防音、そしてベッドのマットレスの硬さは最適でした。
しかし、あちこちの設備が妙にケチ臭くボロイのです。例えば、洗面所の造り付けの棚が、ブラケットではなく小さなビスで留めてあるだけで傾き、乗せる物全てが転げ落ちたり(…棚じゃねえ)。バスタブの幅が凄く狭かったり(多くのイギリス人には無理な幅)、トイレ・ブラシがなかったり。あと犬連れ歓迎なホテルなせいなのか、我々の部屋は正直ケモノ臭かったですね。
二階の部屋までの廊下には不必要にあちこちに段差があり、折角エレベーターの設置されている意味が余りありませんでした。またハイランドのホテル同様に、非常に重い防火ドアも廊下にありました。建設当時のイギリスの防火基準には必要だったのかも知れませんが、こんな重い開け辛いドアじゃ、返って火災の際に逃げ遅れて焼死しそうです。また廊下が結構散らかっていて、最初は宿泊客の誰かがゴミを落とした直後だったから?と思いましたが、翌日も落ちたままで、単に掃除が行き届いてないだけのようです。
最早バスタブを跨ぐのも難しい義母用の部屋としては、予め連絡し、グランド・フロア(日本式の一階)の、スライド・ドア式のシャワーのある部屋を確保しておいてくれました。ところが! その一階の部屋へ行く僅かな距離に防火ドアが二つもあり、杖を付いて歩く義母には重過ぎて一人で開けられず、部屋自体のドアもとても重く、更に鍵も硬くて開け辛く、その上シャワーの給湯レバーも硬過ぎて(これは健常者にとっても)、初日は義母はシャワーを利用出来なかったのです。このホテル、実は全然バリアフリーじゃなく、高齢者&障がい者に厳しい…。
この他にも、義母は部屋の鍵を仕舞った場所を憶えられなくなり、旅行に出るのが相当難しくなって来ている事を痛感しました。また、ホテルや飲食店等の真のバリアフリー設備の難しさも痛感しました。数年前に自分の両親と旅行した際も、ユニットバス・ルームへの段差が不便だとか、食事室の椅子の背もたれのないのが辛いだの、自分では中々気付けない点が年寄りにとっては問題になっていました。日本もイギリスも他の先進国諸国も、今後高齢者人口が高くなって行く一方なのだから、早急な改善が強く望まれます。
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