明日はハロウィーンなので…、お墓の話題です(笑)。子供の頃から私は、墓石ウォッチングが好きでした。流石に夜間に独りで見たい程は好きではありませんが、墓石にはその国の文化と個人の歴史を感じ取る事が出来き、興味を持たずには居られません。同じヨーロッパのキリスト教徒のお墓にしても、国や地域に寄って木彫や鉄細工だの独特な墓標があります。イギリスにも他の国で見掛けないタイプの墓標があり、オカルト好きなお国柄が滲み出ています。
イギリスの墓の特徴その1。まず、派手に傾いている墓石が非常に多い事です。それ故に、イギリスのあちこちで漏れなくゾンビ映画が撮影出来そうな光景に出くわす事が出来ます。更に、イギリスの墓石は脆い砂岩で出来ている事が多い為、ボロボロに崩れて朽ち果てているのも珍しくありません。フィンランド人の義母の話でも、使用中の墓地でさえこんなに手入れが悪くて荒れて見えるのは、ヨーロッパではイギリスだけの現象だそうです。
それらは大抵薄っぺらい板状か不安定な十字架型の墓標で、しっかり根元を固定する礎石が存在せず、正に地面に軽く刺さっているだけだから、時間が経てば傾いたり倒れるのも無理はありません。また、傾いている墓石は必ず古い時代の物なので、管理する親戚・子孫の存在しなくなった無縁仏(…仏とは絶対言わんなあ)なのだとは思います。
イギリスの墓の特徴その2。チェスト型。チェストとは収納用の主に木箱、日本で言うと櫃の事ですが、墓石の場合はどちらかと言うと正に石棺です。なので、これをイギリスで初めて見た際、中に本当に死体が収まっているのでは?とビビりました(真相は不明)。このバリエーションで、四脚の上に石板が乗ったテーブル型と言うのもあります。どちらにせよ、これらは19世紀以前の古いタイプで、かなり財力のある家庭しか持てなかったはずです。
ここで基本的な西洋の墓について、ざっとおさらいしてみましょう。西洋では個人か夫婦単位で一つの墓を持つのが一般的だったようで、棺を埋葬した長方形の場所を囲んで花々で満たすか石板で覆い、その頭の部分にheadstoneと呼ばれる板碑か十字架を建てます。まるでベッドのように、足元にfootstoneを建てる場合もあるようです。このheadstoneに故人の名前や生年没日、享年等が刻まれる為、一般人はこれをtombやgravestoneと認識していて、monumentやmarkerと呼ばれる事もあります。日本でも、こう言った形式の墓石は「洋型」と呼ばれ、特に市営墓地等の敷地が限られた場所では、費用を安めに抑えられる割に見栄えがする為、人気が上がって来ているそうです。
イギリスの墓の特徴3。ずばり棺型。イギリスではそのheadとfootの間の部分に、土管を縦半分に割ったような筒状の石(中空洞)が横たわっている場合があります。その筒が単なる円柱ではなく、丁度人間の仰向けになった体を包むような形で、御丁寧に上半身部分は広がり盛り上がり、足先部分は細くなっています。特別な名称はないようで、一般的に棺型と呼ばれますが、上記のチェスト型の石棺型より更に生々しい、まるで古代エジプトのミイラのような形です。このタイプも、最初に見た時は死体がそのまま入っているのでは~?!とビビりました。いやあ、イギリスだから本気であり得ると思いました。何せ本物の墓石の上でお茶する地下墓地カフェもある国ですから。あえて言えば、現在のイギリス人の平均的な体格に比べると随分小さ目です。これらも、全て苔むした古いタイプの墓石です。
イギリスの墓の特徴その4。オベリスク型。今まで余り注目した事はないのですが、その名の通り古代エジプトの記念碑を模した、先の尖った角柱の塔型の墓石です。天辺に十字架のない本当にオベリスクだけのタイプもあるようで、もし墓地になければ墓とは認識し辛いかも知れません。中にはとんでもなく背の高いオベリスク型もあるようで、塔が高ければ高い程、故人が天国に近付けると信じられていたのかもと想像します。
イギリスの墓の特徴その5。ケルト十字を良く見掛ける事。P太は(なので宛にならない)、先祖がケルト系の人物の墓だからじゃないかと言っていましたが、墓石に刻まれている名前を確認する限り、そうとは断言出来ないようです。苗字の頭に「Mc~」または「Mac~」が付けばスコットランド系、「O‘~」が付けばアイルランド系、苗字が「Jones」か「James」だったらウェールズ系かも知れないと推測する事は出来ますが、特にそれらしい特徴の見当たらない名前の場合もあります。ケルトの地に行けば、このタイプはもっと多く見掛けられるのかも知れません。
ケルト十字の墓標は意匠が様々で、彫刻の凝った美しい物が多いから、出会うとつい何処でも撮影してしまいます。
天使像やすすり泣く女性の墓石は、ヨーロッパ中で見掛けます。しかしTVドラマ「Dr.Who」のお陰で、天使像は怖くなった…。またヨーロッパでは、わざわざ墓石にドクロの刻まれている事が良くあり、「memento mori」って事なのでしょうが、日本人には理解しにくい感覚です。
これはちょっと珍しい、とげとげの十字架。土台も何気に個性的です。
木製の墓標は、イギリスではかなり稀です。何せ雨の多い国ですから朽ち易く、長く残っている物は少ないと思います。これは複十字どころか三十字で、形も変わっています。
その他にも、大理石製や霊廟等、墓石の贅沢さは上を見れば切りがありません。勿論これらの墓標は、今はイギリス特有の物ではなく、イギリス連邦&旧連邦の国々、アメリカやオーストラリア等のイギリスからの移民の多かった国でも見る事が出来るとは思います。私がイギリスの墓を見る機会があるのは、ほとんどキリスト教会だから、観察する墓標は当然キリスト教徒の物ばかりです。しかしこれ程移民の多い国なので、市営の共同墓地とかに行けば、他宗教の墓標を見る事が出来るはずです。キリスト教徒の墓だけを眺めても、日本より遥かに形や素材や装飾等の変化に富んでいるように思います。また、時代と共に宗教観、墓石や埋葬のスタイルもどんどん変わって来ています。
今は子供用に用意された(涙)、ハート型やテディベア型の墓石も珍しくありません。こちらの木の根元にはstillbirth、すなわち死産の子供の墓が集まっています。
イギリスの火葬率は70%以上で、ヨーロッパ一の高さだそうです。そして墓地不足はイギリスでも深刻で、墓地の確保には非常にお金が掛かって難しい為、墓地を持たない「散灰」と言う選択も一般的になって来ています。
日本と違って遺族が火葬後にお骨上げをして骨壺に入れる習慣はない為、遺骨は本当に粉々の灰状態に火葬されます。その散灰の為の場所を、新たに墓地に設ける教会も増えて来ています。
遺灰を撒いた後は、遺族は大抵このような記念碑を掲げ、事実上墓石代わりになります。
イギリスの典型的な墓石のタイプを詳しく紹介・説明したサイトでもあると良いと常々思いますが、未だ出会った事はありません。もしかしたら、書籍なら存在するのかなあ。どの時代にどんな理由でその墓石のタイプが生まれ流行し出したのか、突き止められれば更に興味が増すと思います。兎に角、墓について語り出すと尽きないので、今日はこの程度で止めておきます。それではHappy
Halloween!