今日は敬老の日で日本でも休日ですが、イギリスでも急遽公休日となりました。先日崩御された、エリザベス二世女王陛下の国葬が行われる日だからです。御高齢だったので、遠からずその日は来るだろうとは分かっていましたが、実際に亡くなられた今、イギリスにさして愛着が無く英国王室のファンでもない私でも、もうクリスマスにあの甲高いお声のメッセージを聞く事もないと思うと非常に寂しく感じます。長らく病床にあられた訳でもなく、前々日までにこやかに新首相の就任謁見に応じておられたので尚更ショックです。
70年間もの長きに渡って在位されたのですから、正に英国のアイコン的な存在で、女王の居ない国の喪失感はそう簡単に消え去る物ではありません。単に在位が長かっただけでなく、正に戴冠時の宣言通り生涯を国民に捧げた人生で、他王室のお手本とも言える品位と威厳と配慮に溢れた姿勢を貫き、死の直前まで責務を果たされました。不祥事や醜聞の絶えない英国王室ですが、今までそれを乗り越えられたのは女王陛下の人気あってこそです。
女王死去に伴い、イギリスの硬貨や紙幣、郵便切手、郵便ポスト、パスポートのデザインに至るまで一新されます。それらには全て女王の肖像(または文字や紋章)が入っているからで、今後は新国王チャールズ三世に変更されます。しかし今まで使用されていた物が一斉に使用禁止になる訳ではなく、随時更新され入れ替わると言った具合なので、仕組み的には日本の年号が変わるのと大差はないはずです。とは言え見た目はもっと大きく変化する訳だから、見慣れるのには時間が掛かるかも知れません。そして、女王の肖像や紋章の入った公的書類等は、この国には数限りなくあるのに違いなく、全ての変更には手間と費用がとんでもなく掛かりそうです。20世紀前半には君主が結構頻繁に交代した為、さぞ面倒だった事と想像します。国歌の歌詞も、既に「God Save The『Queen』」から『King』に変更されました。ジェームス・ボンドも、今後は「国王陛下の007」にならざるを得ないでしょう。
私は昭和生まれなので、君主の崩御は昭和天皇に続き二度目となります。昭和天皇崩御時は、余りに昔で良く憶えていませんが、冬だったのでやたら寒くて暗くて一層気が滅入った記憶のみは鮮明に残っています。TVはしばらく「天皇陛下の一生」や「激動の昭和史」一色だった為、レンタルビデオ屋(と言うのが時代ですね…)が多いに儲かったと聞きます。かく言う私達姉妹も、実を言えば「ウルトラQ」のビデオを借りて来て、全シリーズ見ていました。
学校や業務は「大喪の礼」の日以外は普通に開いていたと思いますが、店舗とかは閉まっていたのでしょうか?? 少なくとも、大っぴらに公共で娯楽が出来るような雰囲気では全くなかったようです。また宮内庁が色々隠蔽した疑惑があり胡散臭く、正直天皇陛下の死を純粋に悲しめないような、息詰まる重々しさが漂っていた記憶があります。
イギリスのTVも、しばらく「女王の思い出」的な番組一色なのは同様です。今日以外は商店も学校も仕事場も普通に開いていますが、女王の死を悼む店舗ディスプレイや巨大ポスターが町のあちこちに掲げられていて、日本との文化や時代の違いを感じました。その他にも、一般住宅でもユニオンジャックを掲げている家を幾つか見掛けました。国規模の祝賀的な行事は当然中止されましたが、スポーツの試合やフリマですら自主的に中止されました。「自粛」は日本独特の傾向だと思っていたので、少し意外でした。もっとも真に女王に敬愛を表している故の決断に思え、決して大袈裟には感じられません。ただし、宿泊施設の中にも国葬の日は急遽休業と発表した所があり(早くから予約していた客はどーすんだ)、日本のように不謹慎狩りに合うのがイヤで過剰に反応している、または単に喪中を口実に便乗しているように見える場合も、全くない訳ではありません。
葬礼に関する幾つかの儀式は日本よりも厳格で形式ばって見える一方で、女王の棺は数日間一般公開され、誰でも弔問出来る仕組みになっていました。どうもイギリス人にとっては、王室行事はジュビリーも御崩御でさえ一大イベントのようで、女王に対する敬意だけでなく、この非常に稀な歴史的機会を体験をしたいと弔問に参加している人も多いようです。とは言え、順番待ちの行列は8㎞に及ぶとも24時間待ちとも言われ、既に夜間の気温は10度を下回るのに待機の為に野宿するなど(しかも高齢者だったり幼児連れだったり)、好奇心を満たす為にしては相当な気合と体力を要する為、やはり「女王愛」あってこその熱意だと思えます。
国葬と聞くと、否応無しに日本のゴタゴタを思い起こさずには居られませんが、一方君主の国葬なら誰も異議はないだろうと思いきや、いつの世も「王室なんて税金の無駄遣いだ!」と唱える共和国派は居るので、反対勢力や騒動・混乱が全くない訳ではありません。当然警護は厳戒態勢で、莫大な税金を費やす訳です。
しかしながら、皮肉な事に現代では立憲君主国の方が、首相や内閣の権限が限られている為、返って独裁制になりにくく、民主主義の規律と平穏が保たれ易いのではと感じる事が多々あります。共和国において政治のトップがロクでもない奴の場合、この21世紀でさえ、国が激ヤバまっしぐらになって行く実例を幾つか見て来ましたので。
イギリスでは、昔から女王の御代は栄えると言われて歓迎されます。そして、少なくとも私が生きている間は、この国で再び女王が即位する事はなさそうです。イギリスは、かつての産業革命を起こした大英帝国の時代に比べると、勢いはなく規模を大きく縮小しましたが、エリザベス二世在位時は、その前の二つの大戦時に比べれば国内はまずます安定した、生産業が衰退した割に先進国としての地位は十分保てた時代だったと言えます。
しかし正に現在、EU離脱後や記録的な物価高騰、燃料不足、毎日ドーヴァー海峡を渡って来て増える一方の難民等の問題は山積みな訳で、これから急激に下り坂にならないとは言い切れません。正直チャールズさんは人気がイマイチだから、英国王室の今後も不安です。「女王の国イギリス」は本当にこの国の誇るべきブランドの一つだった、そして一つの時代が終わったと実感します。女王陛下の御冥福をお祈りします。
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