貴重な秋の快晴の日に訪れた、丘の上の孤高の教会Church of St. Martha-on-the-hill セイント・マーサ教会の周囲は、イギリスの古い教会らしく墓地になっています。このような高台の墓地、しかも眺望抜群の立地とあらば、ステイタスとして古今東西非常に人気があります。しかし、墓地の不足と価格高騰が深刻なのはイギリスも同じで、こんな恵まれた場所に死後眠る事が出来るのは、極限られたイギリス国教会の信者だけのようです。
現在の一般的な墓石は、せいぜいB4サイズ程度の板碑です。こんな、素朴な木製の十字架の場合もあります。また、埋葬を許可される土地代だけでも相当高く付くので、散灰するのみと言う形式も一般的になって来ています。
教会の入り口近くに、こんな大きな古風な墓石があるのに気付きました。一見シンプルな平べったい墓石なのですが、側面にネズミの彫刻が彫られてチョロリと覗いています。
イギリスの墓標のバリエーションは豊かで、また故人の人柄や意思を表した遊び心のある墓石も、イギリスではそう珍しくありません。
礎石を除いても縦130×横80cm位のかなり大きい墓石なので、すっかり第二次大戦以前の古い物かと思っていました。しかし、没年を確認すると、つい最近の2012年。しかも、享年9歳??
家に帰ってから、この墓の主の名前をググってみました。こんな年齢で亡くなるなんて、死因は交通事故かも知れない。もしそうであれば、事故のニュースの記録が残っているはずと、単純に興味を抱いたからです。検索すると、すぐに答えが出て来ました。家族がファミリー・ツリー(家系図と人物紹介)を製作していて、ネットで公開していた為です。その結果、このBlossom Barrowと言う名の少女は、5年間の闘病生活の後、「neuroblastoma 神経芽腫」と言う、5歳以下の子供に発病率の高い神経細胞の癌で亡くなったそうです。
またそのファミリー・ツリーを眺めていて、彼女の母親が翌年の2013年に52歳で亡くなっているのも気になりました。辿ってみると、この母は貴族の家系出身のライターで、ウィンザー城で誕生したそうです。しかし母の生母は出産直後に亡くなったようで、続いて父親も彼女が30代前半の時に亡くなっています。彼女自身は、娘の死の18カ月後に癌で亡くなりました。娘の看病に明け暮れていた為、自分の癌に気付いた時には既に手遅れだったそうです。夫とは正式には結婚しなかったようで、苗字が違うから見落としましたが、娘の墓の隣には似たような墓石があった事だけは憶えています。もしかしたらこの母は、其処に埋葬されているのかも知れません。
家族二人を立て続けに失くした悲しみは、計り知れない程大きかった事でしょう。しかしこんな教会墓地の一等地の、現代では珍しい程の大きな墓石を建てた位だから、相当裕福な家庭なのは疑いようもありません。5年の闘病生活の後に僅か9歳で亡くなったのでは、この少女の人生を知る人は少なかったであろうと想像しますが、親が大金持ちで立派なお墓を建てたお陰で、思いがけず全く縁のない東洋人の知るところとなりました。
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