2025/10/25

ロスチャイルド家の至宝! ワデスドン・マナー 4

 

昨年の夏の終わりに訪れた、大富豪ロスチャイルド家のまるでお城のような超豪華屋敷Waddesdon Manor ワデスドン・マナーで、まだまだ広大な館内見学は続きます。

当主一家は12名だけでしたが、元々収集品の披露と饗宴の為に建てられた館だったので、招待客用の部屋は沢山設けられていました。寝室だけでも本棟に10室、更に東棟に10室と言うから正にホテルです。しかも、それぞれの部屋のインテリアが異なり、超一級の調度と美術品で贅を凝らした装飾が施されています。

こちらは、本棟の客室の中でも最も大きな寝室の一つで、恐らくヴィクトリア女王が滞在したと言われています。

ベネツィア・ガラス製と思われる照明が、不釣り合いな程の可愛さ。 

こちらは、ファーディナンドの妹アリスの寝室だったと言われる部屋。余りに部屋数が多く「豪華疲れ」した為、どうも多くの部屋で無精して奥まで入らず、入り口から撮影しただけで済ませてしまったようです(笑)。

大きな寝室には大抵付属の浴室が設置され、つまりエンスウィートになっています。

正面玄関ホール(ポーチ)の真上に位置する為にPortico ポルティコ寝室と呼ばれる部屋も、最大規模の寝室です。

こちらの浴室はの壁は、デルフト焼きのタイルのようです。

こちらは、割と小さな寝室です。ベッドの手前にあるのは移動式トイレ…?

18世紀のお屋敷に比べると、廊下の幅は意外と狭めだと気付きました。19世紀末は女性のスカートが、それ程広がっていなかったせいなのかも知れません。

晩餐室にしか見えませんが、White Drawing Roomと呼ばれるホール。Drawing Roomとは応接室の事で、元々は食事の後に退いて(drawing)談話を楽しむ部屋だったようです。

この部屋の大きな肖像画は、後にフランス革命でギロチンの露と消える国王ルイ16世。監視員さんのお勧め通り、テーブル越しに撮影してみました。

部屋の奥では、この年は17世紀のイタリアの画家Guercino グエルチーノの特別展が行われていました。 

その隣は、Red Ante Roomと呼ばれる待合室。今気付きましたが、この部屋の天井だけは何故か異様な低さです。

Blue Dining Roomと呼ばれる、この館の中では控えめな大きさの晩餐室で、暖色系の調度の部屋が圧倒的に多い中、確かに寒色系は目立ちます。

一変して、この館の東棟部分は、本棟に先立って完成したバチェラー翼と呼ばれる独身男性専用区域で、木造を強調した重厚で寄り古風な造りになっています。

壁板は、16世紀のフランスの城から移築した物だそうです。

男性専用棟や部屋は他の古いお屋敷でも時々見られる物ですが、一体何故必要だったのか? ここでは確かに壁には大量の武器が飾られていて、大抵の女性だけでなく、男性の中にも居心地が悪いと感じる人が居るはずです。

こちらは喫煙談話室。エリザベス一世と、その寵臣達の肖像画が掲げられています。

男性専用にしたのは、女性を喫煙から守る為か(※恐らくアール・デコの時代まで女性は人前で煙草を吸わなかった)、はたまた女の眼を気にせず思う存分卑猥な話を楽しむ為か()。今だったら性差別と叩かれそうですが、返って男女別にした方が、どう頑張ったってトラブルが少なく快適な場合も多いはずです。

こちらはビリヤード室。少なくとも、日本の男と違って、当時からそれなりに女性に気を遣う習慣があった西洋ならではの発想だと思われます。

ビリヤード室のアーチ状の天井には、皮革を型押し彩色した物が貼られています。こんな天井の仕様は、今まで見た事がありません。 

更に、この東棟には独身男性用の寝室が並んでいます。 

ガイド・ブックを読まない限り、これが独身男性用とは全く気付けない内装です。

東棟の地階(日本風に一階)には、レストランや選りすぐりの高級食材を売る店があります。店では、ロスチャイルド家特製のワインも買えますし、とある日本のポン酢も、お眼鏡叶って取り扱われているそうです。

一方ギフトショップでは、ロスチャイルド家柄のティータオル(布巾)や紙皿も売られていました。 

ファーディナンド・ド・ロスチャイルドは、妻を失った後は一生独身を貫いたとは言え、もしかしたら恋人は居たのかも知れないし、すっかり骨董美術品収集にのめり込んで案外十分満足な生涯を送ったのかも知れず、赤の他人の私には知る由もありません。返ってそうであって欲しいと思いましたが、友人には確かに「お宝に囲まれて暮らしても孤独で苦しい」と打ち明けていたそうです。

例えば、シェーンブルンのような一般庶民の感覚からはかけ離れた巨大宮殿であっても、生活の微笑ましい現実感は幾らか残っている物です。しかし実際この館からは、家庭的な温かさや暮らしを楽しんだ気配はほとんどなく、虚しさばかりが感じられました。例えどんなに財力があっても愛情と健康は買えず、豪華絢爛で財宝に溢れていても、まるでテーマ・パークや映画の撮影セットのようでしかなく、「丘の上の宝石箱」と称された城館は、実は虚無の屋敷だったと感じました。最初は豪華過ぎて思わず笑ってしまいましたが、一度真実を知れば笑う気が失せる程、悲しみと孤独が秘められた館だったのです。




2025/10/24

紫とクリアの楕円ラインストーンのスプレイ型ブローチ

 

九月初旬に訪れた超悪天候のアーディングリーのアンティーク・フェアの屋内会場で、一つ2ポンドで買ったビンテージ・ジュエリー三つの内、最後の一つはこのブローチです。

やはりスプレイ型ですが、花や葉を見立てている訳ではなく、単にワイヤーの上にオーバル型のラインストーンが並んでいると言った、どちらかと言えば抽象的な地味で大人しい見た目です。

しかし、紫とクリアのラインストーンの輝きが、シンプルな分際立って見えると惹かれました。

裏面のメインのピンの他に、細いチェーンと極小ピン、いわゆる「保険ピン」が付いていて、それなりに古い時代の製品で丁寧な造りなのが伺えます。 

多分回転ピンの未だ無かった時代、不意にピンが外れて落下&紛失するのを防ぐ為に、この保険ピンを付けたようです。

また、実はラインストーンが並べられたワイヤーは、いつものチューブ型(断面が丸)ではなく平ワイヤーで、こんなスプレイ型は初めて見ました。

兎に角、ラインストーンの透明感がうっとり綺麗。使い易い映えるブローチって、案外こんな一見ちょっと大人しいタイプではと思います。





2025/10/23

ロスチャイルド家の至宝! ワデスドン・マナー 3

昨年の夏の終わりに訪れた、世界的な大富豪ロスチャイド家の19世紀築の超豪華屋敷(ほぼ宮殿)Waddesdon Manor ワデスドン・マナーで、続いて上階を見学します。 

その前に、地下の広大なワインセラーも必見。何せ、ロスチャイルド家はワイン財閥と呼ばれる程ワイン製造業に力を入れ、当然ワイン畑も所有しています。

セラーには巨大な酒池肉林な絵画が掲げられていて、この館でも似たような宴が催されたのかとつい想像してしまいます。しかし、この館を建てたファーディナンド・ド・ロスチャイルドは、前途の通り生来病弱だった為に、ワインは毒だと信じて一滴も飲まなかったそうです。

上階(日本風に言うと2階)は、地階と違って部屋の再現と言うよりは、いかにも博物館らしい展示方法になっていました。まずは、ロスチャイルド家の歴史やイスラエルに関わる展示。

この館で使用されていたセーヴル焼き専門の展示も、大きく取られています。

18世紀に初めてマイセンで生産が成功するまで、ヨーロッパでは陶磁器は非常に貴重で、王侯貴族裕福者は中国や日本から大量に輸入していました。

フランスでは、最初にパリ近郊のヴァンセンヌで、マイセンを真似て陶磁器の生産が始まりました。その後国王ルイ15世や愛妾のポンパドール夫人の後援を受け、セーヴルに移って王立窯として発展しました。更にリモージュで磁器用の陶土(カオリン鉱床)が発見されると、主な生産はそちらに移行して行きました。

セーヴル焼きは、豊かな彩色を駆使したロココ様式の絵画表現による装飾が最大の特徴で、特に「ブリュ・ド・ロワ(国王の青)」と呼ばれる鮮やかな濃紺が印象的な高級磁器です。(やる気がなく、ほぼウィキからコピペw)

余りに高級過ぎて有り難みの実感出来ない美術品がひしめくワデスドンで、私が最も心惹かれた展示品は、実はこのボタンでした。

この館の最後の当主ジェームスの母親、男爵夫人エドモンドのコレクションです。19世紀後半に、ボタンを集めるのが流行ったそうです。 

これとて、私には手が出せない貴重で高価な物ばかりですが、やはり大き過ぎない実用品に魅力を感じます。

セーヴルやリモージュを始め、陶器製が多いようです。ウェッジウッドのジャスパーらしきボタンも見えます。

宝石を嵌め込んだ物や、繊細な貝細工(恐らくベツレヘムのピアスド・ワーク)も見えます。本当にいつまで眺めても飽きないコレクションでしたが、人が群がるのでそうも行きません。 

普段からボタンに関心のない人にとっては、こんな他愛ないアイテムでも、これだけ集めるとこんなに興味深いのかと驚くそうです。

レースのコレクションもあり、やはり男爵夫人のコレクションだったようです。

宝飾品等の比較的小さな展示品も、ガラス・ケース入りで紹介されていました。

ロスチャイルド家所縁のジュエリーもあり。割と新しいデザインに見え、三代目当主ジェームスの妻の物かな。

近代の優雅なガラス器もあれば…、

…独特な色合いが魅力的な古代ローマ時代のガラス器もあります。

今でもイギリスでコレクションとして人気のアイテム、トリンケット・ボックス(小さな宝石箱)が、沢山展示されていました。一つ一つ、意匠を凝らした様々な細工がされています。

宝石貴石としては然程貴重ではない瑪瑙ですが、このように宝石箱に利用すると迫力。

こちらは、もしかして琥珀で出来ている? 一見木製ですが、部分的に透けています。

うっとり優美な貝細工の宝石箱もありました。

日本の蒔絵の箱の縁に、西洋の金細工が施されています。蒔絵だけじゃ地味だと思ったんでしょうね…。

やはり、こう言う小ぶりな展示品を眺めるのが、ここでは一番楽しめたように思います。しかし、兎に角暗いのと空気が淀んで息苦しい為、まだまだ展示品はあるのに既に結構ヘバって来ていました。