昨年の一時帰国中に姉とお喋りしていて、20世紀モダニズム文学の主要な英国女流作家ヴァージニア・ウルフの代表作「オーランドー」の話題が出ました。そう言えばヴァージニア・ウルフの住居「Monk’s House モンクス(マンクスとも)・ハウス」が、自宅から遠くない場所にあるじゃないかと思い出しました。NT(ナショナルトラスト)の会員にも復帰した事だし、イギリスに戻ったら訪ねて見ようと思い、昨年の七月に夫婦で出掛けました。
場所は、城下町Lewes ルイスと港町Newhaven ニューヘイヴンの間のRodmell ロッドメルと言う小さな村です。家から割とすぐ行ける場所で、庭園が中々魅力的と評判で、しかもNT会員なら無料で訪問出来るのにも関わらず、何故それまで一度も訪れた事がなかったと言えば、夏季しか開いておらず、また売店もカフェもトイレもない小規模な施設で、更に公衆トイレも存在しないような小さな村に在るからです。
自宅からそう遠くないとは言え、トイレに一度も行かずとも済む程は近い距離ではありません。実際、パブのトイレをちゃっかり利用させて頂くしかありませんでした。
本来の玄関は通りに面した西側に在りますが、来館者は東の庭側から建物の中に入ります。南北に長く東西は幅狭く、南東にはコンサヴァトリー(サンルーム)の大きく取られた日当たりの良い家です。
建物自体は16世紀築のコテージ=田舎家で、1919年にヴァージニアと夫でジャーナリスト兼政治活動家のレナード(レオナード)・ウルフに寄って購入されました。原始的な造りだった為、夫妻は何年も掛けて増改築したそうです。
ノルマン様式の内装の残る古い教会に隣接し、もしかしたら実際にmonk=僧侶が住んでいた事があるから、この名が付いたのかも知れません。
イギリスでは意外と少ない一軒家ですし、一般の民家としては十分贅沢な大きさですが、一部屋一部屋はそれ程大きくはなく、何より天井が低いのでこじんまりと見えます。
ミント・グリーンの壁が印象的。二階建てですが、公開されているのは一階のみです。
今尚ナビがないと車でも辿り付けないような、分かりにくい細い道しか通じていない田舎で、20世紀初頭はさぞかし寂しく不便な場所だったのでは?と一瞬考えます。しかし意外と今でも使用されている鉄道駅には近く、中産階級なので当時でも車を使う手はあったかも知れないし、そもそも1940年にロンドンの家を空襲で焼失するまでは、夫妻はこことロンドンを行き来する生活を送っていたそうです。
また、こんな辺鄙な場所でも文化人の来訪者は多く、近くには芸術家で姉のヴァネッサ・ベルが住む、ブルームスベリー・グループのサロンの中心地チャールストン・ハウスも在り、そう寂しくはなかったようです。
内部のインテリアは、実際にウルフ夫妻が執筆活動を続けていた様子が感じられるよう再現されています。
こちらは、ダイニング・ルーム。椅子の背もたれが、いかにもアール・デコ期らしいデザインです。既に大きなテーブルと六客の椅子のみで、部屋のスペースを大方占めているように見えます。
こう言う調度って、後からNTが時代に合った物を買い集めて装飾する場合もありますが、ここのは実際この家に残っていた家具類をそのまま使用しているようです。
お手製っぽい家具が残っているのも、それらしいなと。
チャールストンでも思いましたが、ブルームスベリーのスタイルって、こんなお世辞にも巧とは言えない素人っぽさが持ち味だったのか??
左の大胆な斜め模様の衝立も、今尚斬新なセンスに見えるし。
この家で特に興味深かったのが、右側の階段を少し登った先に在るヴァージニア・ウルフの寝室。一度屋外へ出ない限り、部屋に入れない不便さです。
建物全体を見ると、この部分は後付けなのが分かります。
部屋自体は、作り付けの棚や洗面台さえ設置されて結構快適そう。
割とモダンに改装されているのは、1941年のヴァージニアの死後も、1969年まで夫のレオナードがこの家に住み続けたからのようです。
ここのテーブルのタイルの柄も、ブルームスベリーの時代らしい素人っぽさが残る絵付けです。
ゴブラン張りの椅子は、イギリスらしい優雅さ。
そして、極めて初期の使うのが恐ろしそうな電気ストーブは何気に必見。本体は、恐らく熱に強いベイクライトで出来ています。
続いて、庭を歩いてみます。
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